『技あり関西〜すそ野からの挑戦』
 
(読売新聞 関西版 2003年8月26日掲載)

 ウエットスーツ素材 シェア世界一

 大阪市の山本化学工業社長 山本 富造さん 44



ウエットスーツなどの素材を手にする山本社長。これをスライスして加工する(大阪市生野区の同社で)

この夏休みにダイビングを楽しんでいる人も多いはず。
世界で三千万人余とされるダイビングファンの
体を包むウエットスーツの素材シェアで世界一を誇るのが、
山本社長が率いる山本化学工業だ。

内部に無数のミクロの気泡が入った特殊ゴムの表面に、
チタンや合成樹脂をコーティングするなど、
誰も思い付かなかった工夫を重ねてきて、
夢の素材を実現した。
軽くて薄くて温かい、水の抵抗を
従来の二百分の一近くにまで減らして
速く泳げるなどの画期的な機能を備えた
ウエットスーツの開発につながった。

2000年のシドニー・オリンピックで
初の正式種目になったトライアスロンでは、
ほとんどの選手がこの素材のウエットスーツで出場したという。
フリーダイビングの潜水世界記録更新にも貢献した。

もともと、消しゴム付きの鉛筆をヒットさせたり、
ゴルフのツーピースボールを考案したりしたアイデアで成長した。
同社の合成ゴムは、
自動車や航空機の外壁と内部の間に挟んで
振動やひずみを吸収する緩衝材としても注目され、
国内外で取得した特許は約百件。
最近は健康素材の開発にも力を入れている。
昨年の売上額は約三十六億三千万円という元気な企業だ。

 軽く薄く温かい 夢の機能

 ** ゴム表面に チタンの層



チタンでコーティングした素材。銀色に光り感触は滑らか

かつて潜水服といえば、タイヤチューブが材料。
硬くて重く着脱しにくかった。
海女さんから
「軽くて着心地のよいものを」という注文が舞い込み、
開発が始まりました。

合成ゴムだけでは重くなる。
そこで思い付いたのが、内部に無数の独立気泡を持つ構造。
台所用のスポンジは気泡同士がくっついていて水を吸うが、
つながっていない独立気泡なら水も汗も入らない。
石灰石を混ぜると軽くなることも知り、
ゴムと、窒素ガス入りの発泡剤、
反応促進剤を真空中で二段階に分けて練り込み、
発泡させる技術を研究しました。
温度や圧力をさまざまに変えた実験を重ねて、
直径0.02ミリの気泡に窒素ガスを封じ込めることに
数年がかりで成功しました。
断熱材の働きをして体温の低下を防ぎます。
 

普通のゴムに見えるウエットスーツにも、アイデアが詰まっている訳ですね。



ウエットスーツの材料は石灰石を混ぜ込んだ合成ゴム。手触りはモチのようだ

ダイビング人気の高まりとともに、
もっと軽くて薄く着脱しやすいウエットスーツをという要望が増え、
表面を金属でコーティングする手法を三年がかりで考案しました。
海水に溶けたりさびたりしないチタンが最適でした。
しかし、ここからが一苦労。
粉末を塗料に混ぜ、いくら薄く塗っても引っ張るとひび割れする。
スプレーで吹き付けると、大半が空中へ飛び散ってコストがかかるし、大気を汚染する。

困っていた当時、ドット(点)の集まりを利用する
ワープロの印字法を見て、ピンときました。
「そや、無数の点を打つように塗ったら、どやろか」。
あれこれ試した結果、
直径0.3ミリの点を0.1ミリ間隔で、
塗料の厚さを0.1ミリ以下にすると、いくら引っ張っても割れなかった。

両面にチタンをコーティングする技術で、
二―五ミリだったスーツの厚さを0.5ミリへ、
重さも十数キロから二キロ以下に軽くできました。
チタンは熱を反射するとともに、水をはじく働きがあり、
長く潜っていても冷たく感じないし、脱ぐと内側がすぐ乾いて着やすい。

 ** 魚を見て 新たな発想



フリーダイビングで潜水160メートルの世界記録を達成したタニヤ・ストリーターさん。
着用したウエットスーツの素材は山本化学工業製だ(2002年8月、英領西インド諸島で)

こんな性能なら世界に通用するはずと父の敬一会長が、
トランクにウエットスーツ素材のカットサンプルを詰め込み、
欧州のウエットスーツメーカーを
一軒ずつ訪問して売り込みました。
最初は相手にされなかったが、
ドイツの会社が試験的に採用してくれて評判になり、
徐々に取引先が増えた。
今では本格的なウエットスーツ素材で
世界シェアの約60%を押さえています。

トライアスロン用の素材にはどんな工夫が。

速く泳ぐには水の抵抗を極限まで減らす必要があります。
そのためには魚のぬめりに似た薄い層を表面に付ければいい。
この発想は魚屋でタイを見ていて浮かびました。
メドがつくまでに数年かかりましたが、
親水性の機能を持つウレタン樹脂の
微小球の層をチタン層の上に張りました。
水中で親水性部分が水となじむ仕組みで
流水抵抗を0.028とゴム(5.0)の百七十分の一に減らせた。

この素材のスーツを着た英国の女子フリーダイバー、
タニヤ・ストリーターさんが英領西インド諸島で昨夏、
水深百六十メートルまで潜る世界新記録を達成し、性能を実証してくれました。

軽いのに丈夫で衝撃を吸収しやすい製品も手がけ、
緩衝材としてドイツのBMW社へ売り込み、性能が認められつつあります。

金や白金などの金属鉱物を練り込み、
人体によい遠赤外線を放射する新素材「バイオラバー」も
四年前から本格的に販売を始めました。
社員七十八人、資本金一千万円の小さな会社ですが、
アイデアや開発力ではどこにも負けないつもりです。

 
 
水道橋博士愛用!「バイオラバー応援サイト」