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★ネット改定版 ★

第4回 吉田豪「男気万字固め」、山城新伍「おこりんぼさびしんぼ」

 

「男気万字固め」はタレント・インタビュー本である。

さらにタレント本の収集と分析に関しては日本の一人者であり、
現在、30誌を越える連載量と、その守備範囲の広さから
若手最強ライターの肩書きを持つ吉田豪の単行本デビュー作である。

吉田豪は、普段は、俺のフェバリット雑誌である
「紙のプロレス」編集部にスーパーバイザーとして席を置き、
実際には会場でのプロレス観戦をほとんどすることなく、
レスラー本や、業界活字、レスラ―の肉声から類推、邪推、分析し、
秀逸なプロレス時評を展開するという揺り椅子探偵もどきの異能の人である。

そして彼は俺の友人でもある。
だから、この本の推薦帯は、不肖、俺、水道橋博士が書いている。

「吉田豪は相手の99の力を引き出し、100の力で書く、
 そして読者に200以上を夢想させる。
 だからこそ、芸能本史上、最強の聞き手として、
 300%推薦するしだいである」

と。我ながらこれは言いえて妙である。

さて、この本は既に廃刊になった「月刊TVチョップ」という情報誌に
連載されたインタビューを基調にしている。

「濃縮人生語り下ろし2時間一本勝負、二万字インタビュー」
と題しているが、この二万字インタビューなる言葉は、
「ロッキン・オン」などで熱烈なるファン層を誇る
アーティストの主張にはお馴染みの手法ではある。

が、この本に収められているラインナップは、
芸術家肌と言うよりも、
鉄火肌の気質も持ち主で、
山城新伍、ガッツ石松、張本勲、さいとうたかを、
という実に偏りのある男汁の濃い口のタレントなのである。

いずれの御仁も、そのジャンルの破天荒な暴れん坊であり、
それだけに叩けば埃は出るし、脛に傷があるような、
はちゃめちゃな経歴の持ち主なのである。
しかし、これらの面々は、
その語りに姑息な自粛、検閲、修正は一切無いのだ。

読書の間、デオドラントされた平成の芸能界にはありえない、
古き良き昭和臭はプンプンと立ち込め、不器用であるが故の、
男汁は実に豪快に垂れ流しなのである。

吉田豪は、絶滅寸前の昭和芸能秘話を掘り起こし、
平成の世に蘇らせる墓荒らしである。
なにしろ、実生活では著者本人は、菜食主義者でありながら、
スターの生態、性癖としての肉食獣的なエピソードは、
ことさらに愛好しているのである。

そして本人の前で、
今や語られることの無いオフレコの武勇伝、エロ話、
葬り去られた不祥事の真贋を聞き出し、
本人が、そこを隠さず堂々と語った発言後に「キッパリ」と
擬音の楔を打つのは吉田豪のオリジナル・ファイト・スタイルである。

例えば、
「そう言えば、ロードワークで必ず野グソをしていた
 っていう伝説も聞いたんですけど、事実はどうなんですか?」

と吉田がガッツに聞けば、
「ああしてたよ(キッパリ)。」
って具合である。

またガッツ石松に対し、
TBS「未来ナース」の企画でシロートへ鉄拳を振るい
企画がボツった事件に言及するくだりなど、
実は、現場に居合わせ、この話を吉田豪に伝えた、
ネタ元である俺もハラハラもののビーン・ボールである。

実は、この本で掲載予定であった原稿が2本ボツになっている。 
語り下ろし取材の“暴走戦車”西川のりお編は、
本人の希望で収録出来なかった。
これは俺も気になって、テレビ局の楽屋で、
のりおさんにこの話を振って見た。
「師匠、どうしてあのインタビューをボツにしたんですか?」
「いや、あのインタビューは誘導が多すぎるよ。
 あの取材、アイツの知っている結論を
 言わせるためにやってるみたいやろ」と。

しかし、のりお師匠には悪いが、
まさにそこが吉田豪の聞き手としての真骨頂であるのだ。
自分が答えを知っているアンサーを引き出すため、
古本を漁り、言葉を駆使して本人に検証する〜この方法論に於いて、
吉田豪は並々ならぬ達人なのである。

さらに連載時に驚愕した“百獣の王”畑・ムツゴロウ・正憲編が、
諸事情によりムリダロウと、不掲載になった。
掲載号を読み返すと、本人が
「なんでそこまで知っているの?この取材は最高に嬉しいね〜」
と上機嫌で乗りに乗りまくって答えた、名作中の名作でである。

しかし、畑氏も、
さすがに冷めて読み返してみると、
パブリックイメージと差がありすぎ、
度が過ぎたと思ったのであろう。

この2編は、文庫化の際には是非収録されることを願いたい。

しかし、この本は、複数のスターのインタビュー集としては、
その後に与える影響を比肩しても25年前に書かれた
高平哲郎著『星にスイングすれば』以来の時代に錆付くことのない
名著と言えるのである(キッパリ)。


その吉田がこの本のなかで
「会うのが長年の夢」「いつかはああいう大人になりたい」と評し
最大級のリスペクトを隠さないのが山城新伍氏である。

お茶の間イメージが、最近ではすっかりエロ爺と化してはいるが、
思うに山城新伍ほど芸能史にその偉大なる足跡が紛失、
つまりチョメチョメされているタレントはいない。

チョメチョメとは、
往年の人気番組「アイアイゲーム」の中での山城の造語であり、
意味はエッチな言葉の“伏字”である。

エロ話と裏話、ナンセンスを愛した山城らしい言葉である。
そう言えば俺がテレビスタジオで初めて会った時も、
山城さんはゴールデンタイムの番組にもかかわらず、
米大統領選の真っ最中に、一句思いついたと
「ゴアゴアとブッシュかきわけクリントン」を連発されていた。

しかし考えても欲しい。
38年生まれだから、63歳。
芸歴44年を誇る大ベテラン、
テレビ少年時代劇である、
「白馬童子」としてデビューした正義の味方¥o身。
監督作5本を誇る映画監督であり、
たけし、タモリ、さんまのビッグ3時代以前から既に30年間、
視聴率タレントとして一線の歴史を刻んでいるのである。

当然、芸能界の人脈は多岐を極め、話題は黄金期の映画界、
さらにTV界の裏話、スターの逸話の宝庫、生き字引であり、
なにより、トークとしてその出し入れの名手なのである。
しかも、あの辛口の立川談志師匠をして
「物知り隠居」と仇名された博覧強記の人である。

その山城が自ら書く一連の著作はタレント本として、
文字通り「独占男の時間」の流るる、傑作・珍作揃いである。
山城本に駄作なし!である。

その証拠に、吉田豪は自らの数千冊に及ぶタレント本コレクションの中で、
最も面白本のベストを山城本である「白馬童子よ何処へいく」をあげていた。

一方、俺のなかで、
今まで読んできた全タレント本の中で、白眉はこの一冊!
「若山富三郎、勝新太郎無頼控え、おこりんぼ、さびさんぼ」である。

この本は何度も読み返し、
そして、そのたびに惚れ惚れとしてしまう。

今は亡き、
若山富三郎、勝新太郎兄弟―。
山城氏はこの二人に、

ぼくは、この二人以外の影響以外、誰の影響も受けていない。
影響とは、影が形に従い、響きが音に応じることだという。
あの兄弟は人にその本当の影響を与えることができた、
最後の役者だっということ。
そのほんの一場面を今、やっと客観的に記すことが出来るかもしれない。


と書き始める。
映画スターとして日本映画の黄金期を駆け抜けた、
この不世出のピカピカの星屑兄弟を思い入れたっぷり、念入りに語ることが、
いかに日本芸能史をキラびかせる神話的な遺産となることか。
大時代的なこの物言いは、決して大袈裟ではないのである。

勝新太郎は、晩年、有名な「パンツ事件」を始め、
反社会行為を繰り返したにも関わらず「勝新大陸」、
「勝新山脈」と呼ぶべき芸能村にデンと構える
一般社会とは隔離される芸能の真理であった。

この事実は、特殊漫画家・根本敬氏他の指摘により、
昨今、多くの人に理解されつつあった。
有名な勝新の金銭感覚のエピドードも、

勝さんが大映から独立し、
勝プロが発足するという記者会見の席上で、こんな質問が出た。


「資本金はいくらですか?」
真剣な顔の勝社長は、逆に問いかけた。
「そんなもん、いるのか?」
思えば、勝プロの行く末を思わせるような始まりだった。

もちろん、若山だって負けていない。

その昔、ずいぶん可愛がって頂いた日本一の大親分・田岡組長が
ぼくに真剣な顔をして聞いてきたことがあった。
「新伍よ、若山はいいやつなのか?悪いやつなのか?」
ぼくは迷わず言った。
「いい人ですよ」
三代目は普段と変わらぬ顔でカラカラ笑って言った。
「いい人か?おい、いい人が俺から金もっていいって、返さねえか」
今度はぐうの音も出なかった。
若山のおやっさんのことだ、その金を返すあてなどないに決まっている。
怖いもの知らずとはこのことだ。


この本をネタ本に何本、エピソード番組を作ることができるか。

現在でもテレビ番組の大物エピソード、大物伝説に於いて、
勝新話は定番中の定番である。

しかし、この「芸能山脈」勝新太郎が
兄・若山富三郎、父・杵屋勝東治から連なる巨大な連峰であったことは、
この芸能一家と密に付き合った山城新伍という登頂家、
及び語り部がいて改めて気づかされるのである。

山城氏は、

兄弟のそばにいた、ぼくは、
その二人がお互いにやきもちを焼く心境や、
二人が父親である杵屋勝東治という男を目指して届かない葛藤に、
苛立ち、諦め、また挑んでいく思いを、
まるで長い長い舞台のように見つめてきた。


と書いてある。
読後に深い余韻漂う本である。

さて、吉田豪のインタビューに於いても、また一連の山城本のなかでも、
貫かれるテーマは「芸能の敵は権威である」こと。
独断と偏見の人、山城氏はそこを信条としている。

先日、スタジオでお会いした山城さん、
「いくら人気があるからって言っても、
 小泉首相がロクなことやらなかったら只じゃ済まんよ、
 その時は、国民に代わって息子を芸能界で苛め倒してやる」と息巻いていた。
それがジョークであり、本音であるところが、
「白馬童子」以来のT正義の味方U山城新伍なのである。


第1回 矢沢永吉著「アー・ユー・ハッピー?」
第2回 いかりや長介「だめだこりゃ」、長嶋一茂「三流」
第3回 小林よしのり「ゴーマニズム宣言」、つくる会「新しい歴史教科書」

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