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5月25日  木曜

 朝、雑誌目を通す。
  木曜日は雑誌ラッシュ日なのだが、
 「週刊宝石」は毎週購入していて、
 そのなかで、「百瀬博教交友録」は、
 オレが一番好きな週刊誌のエッセーなのである。
 なにしろ、毎週のように、
 猪木や前田や佐竹や高田や談志師匠との交流が語られ、
 いつも、いつもキラキラと「男の星座」状態なのだから。
 単行本になるのが、待ちきれなくて
 全て、コピーして保存しているほどだ。

 そこに今回はオレたちが、登場した。(これで2回目だ)


  週刊宝石 6/8号より 連載エッセイ 第81回

 百瀬博教交友録

 アントニオ猪木のスノードーム、こいつはいける

 大型連休が終った一夜、
 名古屋から届いた大好物の「金剛あられ」を喰べながら、
 DVDで官能ロマン映画「肉屋」(イタリア作品)を見ているところへ、
 ファックスの着信音が聞こえた。
 <明後日のフライトの件ですが、
  5:00に成田空港第2旅客ターミナルの出発ロビー内の
  HカウンターとIカウンターの間に「総合案内所」が有ります。
  その前にて、私、久保木がお待ちしております>
 
 ロサンゼルスの日時で、九日午後八時、
 ハリウッドの「MIYAGI」で
 アントニオ猪木と会う約束をしているので、
 そのチケットの受け渡しについての説明だった。
 二〇〇〇年四月の一日、
 アルファキュービック会長柴田良三の応援室で
 面白いものを見せてもらった。
 水に入った円型のガラスの中に招き猫がどかんと坐っていて、
 その前で拍手を打つと、いきなり八木節が流れ出し、
 猫の坐っている周囲に沈んでいた豆粒ほどの小判が
 八木節のリズムと共に舞い踊る玩具だ。

 「スノードームの日本一のコレクターである
  百瀬さんにこれを差し上げようと思ったんですが、
  大学のラグビー部の先輩のお嬢さんのプレゼントなのもので、
  同じ品を探して差し上げます。暫くお待ち下さい」
 一目でこの縁起もののスノードームを気に入った私に、
 柴田はそう言った。そんなことがあった半月後の四月の末、
 アントニオ猪木と「ホテルオークラ」のロビーで会った。
 猪木は数日後に「東京ドーム」で行なわれる、
 桜庭和志とホイス・グレイシー戦の立会いを控えていた。

 「スノードームを色々お持ちのようですが、
  必ずいい奴探して次回に日本へ来る時持って来ます。 
  昨日、日帰りで京都へ行ったんですが、
  挨拶しに行った会社の会長から招き猫のスノードームみたいなものを
  <金運がつくから>ってことで貰ったんです。
  小判がくるくる舞って奇麗なので、あ、これいいな、
  百瀬さんのお土産にしようかなって思ったんですけど、
  下品な音を出すんで持って来ませんでした」と、猪木が言った。
 「下品な音って八木節でしょう」
 「あれ、八木節だったんですか、
  チャン、チャン、チャンとしか聴こえなかったなあ」
 結局この時も、招き猫のスノードームの話だけ聞かされることで終った。
 招き猫の代りに、 アントニオ猪木が
 水の中で冥想しているスノードーム作りたいな。
 
 三、四年前、富士山に『金運大明神』の字を入れたのを作ったら
 大好評だった。
 猪木のなら羽根が生えたように売れるな。
 音はアントニオ猪木の入場テーマ曲『炎のファイター』。
 うん、こいつはいい。早速香港へ注文しよう
 私は一人勝手に悦に入った。

 五月一日に行なわれた「プライドグランプリ2000」は、
 高田道場の桜庭がホイスに圧勝した。
 さらにアントニオ猪木の秘蔵っ子藤田和之が、
 霊長類ヒト科最強の名をほしいままにしてきた、
 アメリカ・オハイオ州出身、一八五センチ、百十キロの
 マーク・ケアーに鼻の骨を折られながらも猛反撃して勝利を納めた。
 最前列で猪木と並んで観戦した私は、


 桜庭の勝利を飛び上って喜んでいる北野武の弟子、
 浅草キッドの水道橋博士と玉袋筋太郎に声を掛け、
 アントニオ猪木を正式に紹介した。


 もう一つの出来事は、自家用ジェット飛行機で観に来た
 ギタリストのエリック・クラプトンに、
 私の着ていたプライド特注のジャンパーをプレゼントしたことだ。
 彼はこの日、アレタサンダー大塚を何発ものパンチで沈めた
 ケン・シャムロック(アメリカ)に、
 リング上で花束を贈呈してくれた。
 クラプトンにコートを渡し、
 ツーショットで写真を撮った後、彼の左隣に坐っていた青年に
 「貴男はクラプトンのマネージャーですか。
 「今撮った写真は後で必ず送るからって彼に伝えておいて下さい」
 と言うと、
 「マネージャーではありませんが、
  百瀬さんの祭りの会
  (毎年六月上旬に行なわれる『鳥越祭を愉しむ会』)
  にお邪魔したことがあるんです」
 と言って名刺をくれた。
 エレクトリックコテージ藤原浩とあったが、
 何をしている人なのか判らない。後で調べることにして、
 アントニオ猪木の控室へ水を飲みに行った。

 「百瀬さん」
 声のする方を見ると、格好いいサングラス姿の
 向井亜紀が一人で立っていた。
 向井は高田延彦の愛妻である。
 日本女子大出の才媛だけあって字も文章も上手だ。
  一年程前、店仕舞いの為に
 50%引きしていたイタリア製の魚の絵の付いたテーブルを、
 引越したばかりの高田に贈った。
 すると早速彼女からも礼状が届いたので知った。
 桜庭のセコンドをした高田とやって来たのだろう。
 「元気ですか」と、返事して愛想なく立ち去った。
 隣に高田がいればもっと喋っていたい長身の美女だ。
 が、百歳で亡くなった作家小島政二郎の言葉ではないが、
 <人様の奥さんと親しく口を利いてはいけない>
 を守ったのだ。

 マーク・コールマンとロシア・ウクライナ出身の
 イゴール・ボブチャンチンの決勝戦が始まる前、
 猪木の後に随いて会場に入って行くと、
 アリーナ席の後ろでこちらを見ている男と目が合った。
 元横綱北の富士だ。私は一瞬もためらわずに彼に近付き、
 「百瀬と申します。九重親方時代の尊台の大ファンでした。
  これからも『プライド』を観て下さるなら、
  もっと前の席のチケット送ります」
 と挨拶して、コールマンが優勝するのを観た。
 
 五月九日の八時、アントニオ猪木とハリウッドの寿司屋
 「MIYAGI」で会った翌日、
 彼の自宅近くの「スターバックス」の前で待っていてくれた
 アントニオ猪木が運転する車に乗って、
 元パン工場の建物を利用した大骨董店のスノードームコーナーへ行った。
 40ほど飾られてあるスノードームのショーケースを覗いて、
 何個か私にプレゼントしようと考えている大きい背中に声を掛けた。
 「ここのは自分で買います。
  四日後にニューヨークに行くんでしょう。
  あちらで一つ買ってきて下さい。
  何日か『アントニオ猪木のスノードーム』っての書きたいんだ」
 「はい、承知しました。」 
 骨董店を出た二人は、ウエストサイドの
 ショッピング・モールヘ向った。(敬称略)


 「正式に」ってところが、読んでいて嬉しさが募る。
 そして、アントニオ猪木のスノードームなら確実にオレも買うだろうな。

 「高田笑学校」の漫才台本、錬り返し、錬り返し、もう10稿に。
 うんざりしてきたところで、
 気分転換に池袋へ。
 印刷屋の前田くんにステッカーを貰う。
 

 プロレスショップ「レッスル」で、
 猪木の塩ビ・フィギュアと
 明日の試合の期待を込めて船木フィギュアを購入。
 自分でヒクソン戦への願をかける。
 オレのトイレの架空プロレス団体では、
 船木へ、猪木や、前田や、高田が、
 「おまえに任せた」と激励しているのだ。



 サンシャインシティへ。
 
 営業ステージで、来たことはあるが、
 プライベートでは来たことが無かった、
 が、またしても、トイザラスに引き寄せられる。
 ディズニーのキャラクターショップで、
 『トイ・ストーリー2』の
 スノードームを買ってしまう。
 もう、オレは止まらないぞ。



 その間も漫才台本片手に稽古をしながら…

 東スポ、〆切。 
 帰宅後、『エクスプレス』ネタ作り。
 漫才ネタ作り、ネタ覚え、平行しながら…



. .
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5月26日  金曜

 朝6時、『エクスプレス』
 サッチーvsミッチー、
 カンヌ、演歌盛り上り、
 オリンピック選手写真集、
 三原じゅん子、コアラ、ゴロー、三井ゆりなどにコメント。
 いくつか、意図的に内角球を投げてみる。

 さすがに睡眠不足なのでドゥ・スポーツで仮眠。
 「東京人」の取材を延期してもらう。
 
 そして、5月最後の聖戦へ。
 あるいは、今世紀最後の大作、「地獄の“格闘技”黙示録」見物の、
 地獄の観光船へと乗り込む。

 18時、東京ドームへ。
 我が家のハゲ・スズキ、どっこいサブを連れて。
 アリーナ5列。
 オレたちの前は、噂の18万のスーパーリングサイドであった。
 しかし、6時のあたりでは、ガラガラの客入り。
 やはり、そんなものかと思ったが、
 ヒクソンvs船木戦では、しっかり埋まっていた。

 <第一試合15分1Rコロ2Kルール>(写真協力:BoutReview

 

 ○近藤有己(22秒KO)サウロ・ヒベイロ×

 パンクラスvsグレーシーの先鋒戦。

 ヒベイロがタックルに入るところを捕らえた、
 近藤の右ハイがからまり、そのまま膝が顔に衝突。
 ラッキーキックなのか、作戦通りなのかはわからないが、
 そのまま、ロープに押し込み、
 躊躇無い、顔面パンチ乱れ打ちでKO。


 オーロラビジョンでは、
 カメラレンズに血が飛び散り、早くも衝撃映像。
 グレイシー側にとっては、まさか、ヒベイロが負けるとは…
 と思うほどの番狂わせなのだと思うが、
 若くして2度のパンクラス王者に輝いた近藤が
 どれほど世界レベルで強いのか、
 対外試合を繰り返してもらわなければわからないだけに、
 パンクラスには、実に大きな、一歩。
 菊田や、美濃輪など、どこの団体のファンから見ても、
 有望な選手がいるだけに、パンクラスには、
 どんどんと他流試合を臨みたい。

 <第2試合15分1Rコロ2Kルール>
 須藤元気(ドロー)アンドレ・ペデネイラス△

 我々のレギュラー番組であった「格コロ」で
 番組発掘ファイターとして、
 大プッシュしていた須藤の登場。



 毎度、恒例の元気のカーニバル入場は、
 ビルマの竪琴、中井貴一風坊さん連中に
 神輿をかつがせて、バリ島のお面か、
 獅子舞風のマスク姿。べイダーっぽい、
 口から吐くスモークなど趣向を懲らす。
 が、まだまだ観客の度肝を抜いていないのは、残念。
 元気のアート嗜好は、まだまだハチャメチャでないところが惜しい。

 ベデネイラスは、ルミナを破った実力者。
 元気のセコンドに、宇野・菊田・塚本の超党派3派連合。
 結果はドロー。



 実力者相手に、元気の膠着を嫌い、
 ただ勝ちに行くだけでない、
 楽しませるスタイルは、
 これが、後楽園ホールであれば、
 惜しみない拍手、歓声、どよめきがあったであろう。
 そういう意味でも残念。  

 <キックルール5R>

 ○魔裟斗(4R2分59秒KO)メルチョ・メソー×

 キックの専門家に言わせれば、
 体重差がありすぎなのだろうが、
 そういう意味では、スター魔娑斗が映える試合。



 格コロの時には
 なかなかKOシーンを見ることが出来なかったが、
 今回、文句無しのKOで良かった。

 休憩。
 ワールド・スポーツ・プラザの鈴木さんと待ち合わせ。
 オレが描いた、猪木・小川の絵(と言うより、コラージュなんだけど)
 を気に入ってくださり、
 ワールド・スポーツ・プラザに飾っていただけることに。

 休憩明けは、元、極真世界チャンプ
 緑師範の、演武。
 氷柱割、これはド迫力で観客に届いていた。

 <極真ルール本戦3分、延長2分3回 

 ○鈴木国博(再々々延長判定勝ち)ルシアーノ・バジレ×
 

 鈴木国博選手とは昔、「リングの魂」で一緒に台湾ロケに行った。
 つのだじろうが描くところの、大山倍達総裁に、
 もっとも、そっくりな顔をしているところが、
 オレのお気に入りのところだ。



 そういう意味でも、多いに輝いて欲しいのは山々なのだが、 
 ドームで極真の試合を只一試合組むってことの意味が、
 果たして正しいのかどうかは、門外漢のオレにはわからない。 
 ここで、リングス入場曲に。
 リングス審議員入場。西良典、太田章、藤原敏男、
 そしてラストに前田日明。場内大拍手。
 KOK大会の再現に。

 <KOKルール5分2R>
 ×金原弘光(判定2−0)マリオ・スペーヒー○

 今月号の「紙プロ27」の金原インタビュー
 「高田選手は強いですよ、関節やらせても別格ですよ。
  今でも桜庭と高田さんがやると、高田さんのほうが、
  全然取るんじゃないですか、桜庭も言ってませんでした?
  だから高田さんは別格なんですよ。僕はいまだに高田さんの
  前では直立不動ですよ。」
 の発言にオレは泣いた。
 なんて男気とやさしさと礼儀と強さをもっている男なのか。
 本当に、今日こそ、金原に一度くらいいい思いをしてもらいたい。



 しかし、スペーヒー、さすがに強い。
 金原の打撃を警戒、すぐに寝技へ。
 相手の光を消し去るスタイルは、ドームでどうだか?
 あれだけ、オモロだった、KOKルールのハズが…。
.


 ○田村潔司(判定3−0)ジェレミー・ホーン×

 グローブなし、赤ショートパンツの田村。
 アイブル戦のダメージは大丈夫なのか?
 それでも、このドームで満天下にRINGSの、
 醍醐味を味会わさせてくれ、
 との願いを込めながらも、
 予想通り、ジェレミー・ホーンは地味に強し。

 アイブルのような大会場向きの強さではないだけに…。
 正直言って、今回のRINGS参戦。
 RINGS大会でもなく、他流試合でもない、
 顔見せ興業であることからも、
 RINGSの底力と、魅力がドームで堪能出来る
 カードであって欲しかった。



 変な言い方だが、強者同士でなくても良かったのでは…
 例えば石井館長のように、
 Kー1初期のピア・ゲネットとアンディ・フグを当てた、
 ああいう、マッチメークをして欲しかったのが、本音。

 <15分無制限Rコロ2Kルール(?)>

 そしていよいよ、メイン。
 ドームの雰囲気がサッと変わる。
 今までがまるで、散漫な予告編上映だったような、
 重厚な空気が占める。

 個人的な妄想ではあるが…
 ヒクソン戦とは世界が待ちに待った世紀のプレミア公開である。
 まるで80年の「地獄の黙示録」公開直前のような…雰囲気。
 日本格闘界は、泥沼のベトナム戦争に突入しているのか?
 そしてジャングルの奥地に王国を築いたカーツ大佐。
 名優マーロン・ブランドがヒクソンである。
 ウイラード大尉の船木は、カーツ処刑の任務を果たせるのか?
 

 ×船木誠勝(1R11分46秒チョーク)ヒクソン・グレイシー○

 船木の入場は、着流しに日本刀。
 カッコイイことをやろうとして…
 といろいろ賛否両論あろうが、
 これはドームの舞台に、なかなか素晴らしいと言うか、
 合格点なのではないか。


 一方のヒクソンは、白いガウン、フードを目深にかぶり、
 まさに、ベトナムの奥地に王国を築いた伝説のカーツ大佐。

 コーナー紹介で船木は、打撃のシャドー。

 ゴング直後、大方の予想通り、打撃をの船木、
 大振りフックはヒットしているのか?
 スタンド差しあい、膝の攻防は一進一退。
 老齢のヒクソンは汗が吹きだし、
 このままの状態で数ラウンド行ってくれと願う。

 1回目のグラウンドで、アリ・猪木状態。
 ホイラー、ホイス戦を経てるだけに、
 観客には、船木圧倒的に有利に見えるのだが、
 しかし、桜庭と違って、しなりのないキックで
 ヒクソンにダメージを与えてるようには見えない。
 逆にヒクソンの膝関節狙いの蹴りで、リズムを失い、
 難なく、ヒクソンも立ち上がる。
 そこを追いかける、姿勢もなかった。
 そのまま、あっさり引き落としたヒクソン。
 いつのまにか、船木、サイドを取られている。
 サイドポジションからニーオンザベリー、パスガード、マウントという
 一連の動きは、目が肥えたファンには、
 なぜに?と言うほど船木は無策に写るだろう。
 これは、本当に無反応なのか?
 それくらい、ヒクソンが達人の領域の神業なのか?
 やったものしかわからないだろう。
 その後は、怖いヒクソン全開。
 ガードをこじ開け、振り下ろす、マウントパンチ。
 片手を巻き上げ、アゴを狙った非常なまでのパンチ。
 エンディングは、お馴染でありながら戦慄のチョーク。
 目をむいて、落ちていく船木。



 ああ、地獄の黙示録
 ドアーズの「ディス・イズ・エンド」が
 オレの頭に鳴り響く。
 20世紀は終わった。
 未来世紀もブラジルのものだ。
 いや、未来世紀の始まりはブラジルが死守した。
 それは潔く認めよう。
 試合後、花道で
 「15年間ありがとうございました」と船木。
 引退なのか?
 
 長い、長い勝者のインタビューを神々しく聞く、観客。
 素晴らしい映画のスタッフロールが最後まで、
 飽きることなく、余韻を引くように…。

 またしても、ヒクソンの牙城は崩せず。
 UWFvsグレーシー最終章にハッピーエンドは訪れなかった。
 どこの国よりも、格闘技に関して、「最強」の概念に拘った、
 日本に、その「最強」を取り戻すことは出来なかった。

 帰宅後、テレビ東京放送分で確認。
 ネットで船木の引退を確認。
 船木はこの試合で引退することを決めていたのだな。
 31歳、あまりに若い。
 でも、これはこれで
 オレは心理的にはわかるような気がする。
 個人的なことになるが、
 昨年、後半、オレは、毎日、毎日、
 芸人をやめることを自問自答していた。
 船木と同じように弟子入りして15年経った。

 プロレスラーと同じく、芸人も、
 毎日、ゴールのないマラソンである。
 誰かを抜くと、誰かに抜き去られる。
 そのなかで、自分がバトンタッチしていくものは、何なのか?
 テレビタレント?
 オレに適性があるのか、どうか?
 オレは、性格の根っこのところが、
 まったく出たがりではない。
 さらに、とにかく、30代後半にもなって、
 精神力よりも体力的に、顕著にもたなくなった。
 二日酔いや、不眠や、朝がつらくて、
 仕事現場に夢遊病のような状態で、行って、
 不本意な仕事をこなすような状態が続いた。
 こんな初歩的なことが切実な問題になっているようでは、
 プロとして、どうしようもない。
 別に、たいして売れているわけでもないのに、こんなことでは…

 さらに、自分が率いて若手育成団体、
 「浅草お兄さん会」などを仕掛けていくうちに、
 中途半端にしか、彼らに関われないことが、呵責になった。
 そして彼らの将来を案じるようになった。
 彼らの才能を売り出すことが、
 現在の事務所でままならぬなら、
 自分で組織を作って、
 自分が裏方に廻ってプロデュースしようなどと本気で考え始めた。
 その方が、オレなどは適役ではないだろうか?と。
 そのために、なにか、自分の引退の契機になるような、
 事件やイベントなどないものか?
 この自問自答は、言ってみれば、船木的であったと思う。

 正しくないわけもなく、しかも全うだったと思う。
 会社を辞めるサラリーマンなどにも必ず身に降りかかる心理に違いない。
 ただ、まっとうすぎる。
 真面目すぎて面白くない。
 面白いことが先にきて、そこから真面目なのは、イイ。
 人前に立つ職業人は快楽主義が先にある、禁欲主義者であるべきだ。
 後ろに続く人に手を差し伸べてどうする?
 売れるやつは、勝手に売れるのだ。
 育成することに、満足してどうする。
 そんなこと、どうってことねぇですよ!
 と考えるようになった。
 身体を張る、男を張る、ことが晒すことである、
 羞恥心から逃げないことであることが、
 最近、おぼろげながら、わかってきた。

 しかし船木の引退決定を支持しないわけではない。
 史上最年少デビューを飾ったプロレスの申し子、
 船木は新日本プロレスと言う
 当時の新日、「鬼ケ島」、いや、「宝島」で生まれた。
 しかし、紆余曲折、島を飛び出し、地獄の観光船を乗り継いで、
 自分の作った日本プロレス史上にない、
 画期的なルールのリングの島を築いた。

 しかし、ここには密林の奥に既に、王がいた。
 その王を倒さねば!自分は王になれない。
 「真剣勝負」の島で、敗れたものが、
 引き際を考えることは、よくわかる。
 でも、今後、後進の指導にあたる船木には、
 これからは「面白い」格闘家を作って欲しい。
 自分は、若き日に、あの猪木やあの前田に「ノー」と言い続けたから、
 無謀な若さの特権の輝きをはなち、
 またプロレスとは、特殊社会であるが故に
 その輝きがファンに迎え入れられた。

 かつて船木は「面白い」レスラーであった。
 しかし、いつしか周りがイエスとしか言えない立場になったら…
 逆に自分がノーと言われる立場になったら…
 いや、つまり安住の地を、後に続く若手に与えてしまったら…
 いつの日か、船木が育てた「面白い」格闘家が、パンクラスに現れ、
 その強さと存在感に、世界は世間をヒックリ返し時、
 その選手の輝くリング姿のセコンドに笑顔の船木の姿を見たら、
 きっと、心の底から拍手をするだろう。
 船木に引退を突きつけられると、やはり感傷的になるさ。

 そしてヒクソン。
 悔しい気持ちとリスペクトも同時に。
 あの、大家族主義とも言える、試合後の歓喜の集団。
 なんとも、魅了されるのはグレイシーと言う名の「遺伝子」だ。
 もし、オレに子供がいたなら、
 確実に今、武道を習わせただであろう。
 仮に今年、オレに子供が生まれたとしても、
 子供が20歳の時には、オレは60近くだ。
 なんたる、時代に乗り遅れた、タイムラグ遺伝子だ。
 子供がいたら、武道を!と思わせることだけでも、
 ヒクソンは本当に偉大なる、ヒーローである。

 などと船木ヒクソン戦について深夜に考えを巡らせる。

 そんなことより、明日の舞台だ。
 客席から他人のことをとやかく言うのは、ここまで。
 オレが、明日は、客前で晒される番だ!
 台本12稿まで。

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