5月1日  木曜

 朝6時、気がつくと、ハイ・テンションの
 石丸元章氏が、枕もとに立っていた。
 あれだけ、飲んで二日酔とかしないのか?
 それとも、この人、クスリでもやっているのか?

 「博士は腰が悪いから…」と
 VAIOやお土産で膨れた荷物も嫌な顔ひとつしないで、
 ひょいと進んで持ってくれる。
 実に親切で頼もしい旅のパートナーである。
 石丸氏は浅草在住。
 浅草のアニマル浜口ジムでムキムキに鍛え上げられた肉体は、
 ヒゲを残したその風貌と相俟って、角田信明、山崎一夫チックで
 どこから見ても、真性ハードゲイそのものだ。
 しかも男二人旅。

 ちなみに石丸さんは、今回、台湾初上陸だが、
 俺は、4年前に『リングの魂』のロケで台湾へ行った以来だ。
 あの時は、予備知識もなにもなく、ただ現地へ行っただけだった。 

 スズキ(同居人)に送ってもらって、羽田へ。
 7時、羽田着、日本と国交のない台湾は、いまだに羽田発着なのだ。
 羽田の国際線到着ロビーは、閑散として片田舎の空港のようだ。



 おかげでゴールデン・ウィーク特有の人ごみのストレスもない。
 始発(と言うのか)、9:05発の中華航空に。
 登場手続きを終えて、待ち時間、
 早くも、石丸氏、売店の鮭おにぎりを頬張る。
 
 機内もわずか3時間で到着とあって、仮眠のひまなく、
 石丸氏は、『地球の歩き方・台湾篇』を読みながら機内食の
 ローストシュリングヌードル、ポテトサラダ、えびのサーモン巻き、
 などを次々と胃に入れていく。

 俺は、まだ二日酔いモードで、朦朧としながらも、
 先日見たばかりの『ハンニバル』のシーンが頭に残り、
 機内食は断り、『台湾論』小林よしのり著を再読。



 現在、特攻隊をテーマに
 次回作を取材中でもある石丸氏は、
 「『戦争論』は読んだんだけど、
  『台湾論』は読んでないんだ。
  でも、小林よしのりが、いっちゃってるんでしょ?」
 と一言ある。

 実際、この本を巡って本人(小林よしのり)だって台湾入国拒否など、
 国際問題にもなった。
 今までにも小林よしのり批判文は多々読んでいる。 

 小林よしのりの漫画を愛好して読んでいるだけで、
 この手の話題に敏感な、一部の人には、
 俺ですら、必ず、いろいろと論争に巻き込まれる。
 しかし、思想、政治的なことには、俺自身、不勉強すぎる。
 ま、ほとんどの場合、そうかぁ? って聞いているだけなのだが

 俺は単純に小林よしのりのマンガは好きだ。
 それは、対立する、どちらの肩を持つでもない、
 小林サイドにだって誤解や偏見、暴論はまったく無いとは思わない。
 
 だが、この本は、台湾近代史のガイドブックとしても、
 また政治問題を離れて、
 エキサイティングなエンターテイメント本として、
 誰もが読みやすく単純にオモロだと思うのだが
 と、控えめに石丸氏に言ってみる。

 この本を読みながら、
 「台湾語は、まだ文字化してないそうですよ」
 って書いてあることをそのまま、話をしていたら、石丸さんが
 「中国人は、どうやって漢字の書き取りをしてるんだろう?」と。
 確かに、漢字には、ひらがなや、カタカナってないもんな?
 
 時差、丁度1時間で、12時前に到着。
 朝出て、午前中には、異国に着いているのだ。
 台北空港には、石丸氏の妹さん夫妻が迎えに。
 智子さんと周奇聖さん。
 二人は学生時代に日本で知りあい、
 6年前に結婚して、台湾に嫁いだそうだ。
 トモコさんはもう台湾語も北京語も喋れるそうだ。
 語学の先生もやっているとのこと。

 そう言えば、機内で話していた、
 台湾語もすでに文字化は始まったそうだ。
 ちなみに俺たちの疑問、
 中国語の漢字の書き取りは、発音記号でやるそうだ…。

 周さんも慶応大学に留学経験があり日本語も堪能だ。
 そのまま、周さんのポンティアックで台北市内へ。



 まずは腹ごしらえに豆乳と油条(油揚げパン)3種を頂く。
 いわば、台湾のファーストフードみたいなもの。



 さらに、日本的に言えば看板の当て字が面白くて、
 「牛肉猫耳朶麺」、「刀削牛肉麺」と立て続けに食事。
 看板にある漢字の象形文字としてのインパクトは、オモロだ。



 そう言えば、
 やたらと食堂の看板で見かける「小吃」、
 ななな、な、なんで軽食を台湾の人は
 「小吃」、どもりと書くのかと?と聞くと、
 どもりと書いて、食なのだ。
 石丸さんと看板、見つけるたびに、
 め、め、め、めしっとどどど、どもった。




 クルマの広告には、必ず、「汽車」と書かれている。
 こんなことは、世界の常識なんだろうが、
 中国語は一文字では単語を表さない。
 だから、自動車も車ではなく、「汽車」なのだそうだ。


 街中にはスクーターが相変わらず多い。
 4年前も感じたことだ。
 が、今回は、疑問に思ったことを口にすれば、
 すぐに、答えが出てくる。
 曰く「台湾は125 cc 以上の単車が登録できない」のだ。
 だから、中型、大型バイクはほとんどない。
 疑問〜答えがある旅は、楽し。

 そして旅の目的だった KinKi Kids の台北公演なのだが、
 『台北ウォーカー』で調べると、11日〜13日とのこと。
 どうやら、10日間違えた。無念。
 いつか行ってやる。

 観光スポットとして総督府、龍山寺へ。
 日本でいえば、国会議事堂、浅草寺あたりなのか。

 龍山寺では、
 長い線香に火をともして、拝む。
 無宗教の俺が、異国で何を拝むのかわからぬが…。



 改装中のようで、
 建物が、映画の看板のような絵で、
 補填しているのは笑った。



 中正紀念堂へ。
 台湾開国の父である故・蒋介石の記念館。
 高さ70メートルの純中国様式の巨大建造物。
 巨大、蒋介石ブロンズ像が鎮座している。
 日本で言えば、奈良の大仏、いや、ガリバー王国みたいなものか。



 GIジョーのように無表情に立ち尽くす、兵士が、
 スモール・ソルジャーズのようだ。
 しかし、蒋介石に鎮護国家の、
 英雄イメージが果たして今の台湾にはあるのだろうか?





 そして広大な敷地を見下ろすと、労働争議のための、
 デモ隊がシュプレヒコール。
 そうか、今日は、5月1日、メーデーなのだ。



 石丸兄妹が、台湾大学のキャンパス見学に出かけたところで、
 俺は疲れ果て、力尽きて、車で一休み。
 雨が降り出した。降ったりやんだり。
 丁度、今日より、梅雨入りとのこと。

 しかし、それにつけても不思議に思ったのは
 これまでの車中の石丸兄妹の会話。
 「6月はそろそろアオリイカの旬だから、日本に来たら連れて行くよ」
 「ヤリイカが終わったら、シロイカが旬なんでしょ。
  あのねぇ、台湾は水イカだけど、刺身はなくて全部、炒めるのよ」
 などと兄妹のイカ会話。
 俺は、一瞬、この二人、鳥羽一郎兄弟の会話かと思った。
 これが、日本人の普通の常識かと思ったら、
 トモコさんは、大学の専攻が食品で、
 卒論がイカの塩辛だったとのこと。
 どうりで詳しいはずだ。

 電気街で、周さんお薦めの
 「パソコンの腕」とあだ名された補助装置購入。
 台湾では、世界のパソコンメーカーの
 下請けシェアー独占しているだけあって、
 日本ブランドもあまりなく、自作が主流だ。

 買い物をしていて、へぇ〜と驚いたのは、
 台湾の領収書は、ナンバーリングされていること。
 一ヶ月に一回、抽選があって賞金が当たるので、
 消費者は、必然、領収書を貰うことになる。



 売り手は、税務署から、
 このナンバーリングされた領収書を買う。
 売上伝票の不正を未然に防ぐわけだ。
 こんなシステムを周さんが教えてくれた。
 日本の脱税王となった周兄弟に教えてあげたい。

 渡辺満里奈本にもあった
 茶芸館、紫籐廬(ツーテンルー)へ。
 老人茶とも言うが、
 一部、日本でも、一大センセーションを起こしている。
 民家を改造した落ち着いた雰囲気。
 さまざまなイベントのフライヤーもたくさん置かれていて、
 なにやら台湾サブカル発信基地の赴き。
 アン・リー監督の『恋人たちの食卓』にも出てくるらしい。



 凍頂烏龍茶と、
 ココナッツ入り小饅頭のお茶受け、
 小さな器から器へ湯を何度も移す、
 変わったお茶の作法を楽しむ。
 一つのお茶碗は、匂い嗅ぎ専門なのだ。



 こういう小技は、
 アジアンブームも相俟って、
 女性誌などで人気を呼ぶはずだ。頷ける。

 夕食、俺のリクエストで、
 満里奈の本から『香格里拉(シャングリア)』を選んで、
 周さんが予約を入れてくれていた。
 「シェフが変わってしまった、今では…」〜って流れだった。
 トモコさんも反対したのだが、
 すでに、予約済みなので、
 注文を少なめにして、もう一軒行くことで納得。
 

 「特製揚げ卵豆腐のカニ入りあんかけ」
 「えびのXOじゃん絡み炒め」
 「ジャスミン入り金華ハムとパイナップルのパン包み」
 「特製ドイツ風豚足湯葉入り土鍋煮込み」
 と、書いたが、
 これは店のメニューをそのまま、
 書き写しているわけではない。

 実際は、メニューには、
 「特製揚げ卵豆腐のカニ入りあんかけ」は、
 日本語で「特製豆腐スープ」
 「特製ドイツ風豚足湯葉入り土鍋煮込み」は、
 「特製豚足スープ」としかお店のメニューに書かれていない。

 せっかく食事を楽しみにしているのに、
 これではつまらない、味気ないではないか。
 そこで、今後、俺たちの食事には、
 石丸さんにネーミングを頼むことにしたのだ。

 続いて石丸さんの希望で、
 四川料理のお店へ。
 場所は、周さんの実家近くだった。




 濃い紹興酒と、満腹にもかかわらず、
 この辛さではとご飯も頼む。

 しじみ、老酒漬け。
 四川風田鶏(デンチー=蛙)
 台湾産カラシ強火炒め。
 細切り肉野菜の魚香ソース炒め、

 
 そして、メニューに
 佛跳牆(ホーチャオチャン)があった。
 満里奈本には「ぶっとびスープ」と書かれていた、
 ホトケがあまりの美味さに飛び跳ねたとの語源。




 一度はこの仏さんを拝みたい。
 で、出てきた。
 とにかく、黒濁して具で盛り上がった、このスープ。
 中身は、確認できただけでも、
 鶏、魚の浮き袋、皮、豚の胃袋、貝柱、
 クコ、ナツメ、くり、うづらの卵、スルメ、香菜、タロイモ…
 などが入ったバケツ入り蒸しスープ。

 本来はこれにアワビが入っているらしいが、
 このお店では庶民向けになっている様。
 タロイモに味が沁みてないと、周さん夫妻はご不満。
 バケツの中は黒いながらも、レンゲにとると透き通ったスープで、
 極上で何倍でも飲める。
 ここまで満腹になってくると、具の方は、よくわからない。

 すっかり満腹気分で、夜道を歩いていたら、
 台湾旅行者の名所で、
 さっきまでは、大行列で入れなかった、
 『鼎泰豐』(ティン・タイ・フォン)が閉店前で、
 行列が空いていた。
 NYタイムスで世界ベストレストランに選ばれ、
 新宿高島屋にまで出店した小龍包の専門店。
 今回は事前にそういうガイドブック的知識はすでにあった。
 しかし、4年前にも、来たことがあるのは、
 すっかり覚えていなかった。

 1Fの職人が包をこねている厨房を抜けて、
 2Fの客室に入って気が付いた。
 『リングの魂』でナンチャンと台北にロケで来た時も、
 このお店に来ていたではないか!!
 しかも、店内禁煙と、いかにも今風の内装に、
 「なんだ、あんなファミリー向けの
  チェーン店に連れて行きやがって…
  もっと地元の美味いものを食わせろ!」
  
 などと俺たちは4年前に不平不満で、悪態を垂れていた。
 よく考えればナンチャンをファミレスには連れて行かないだろう。
 本当に知らないことは恐ろしいことだ。

 満腹ではあるが、
 小龍包、えび餃子、はっぽう飯を注文。
 細切りの生姜とたれに合わせて、れんげに乗せて食す。
 小龍包からにじみ出る、火傷しそうなスープが、
 この食の醍醐味とのことだが、
 周さんは、「コレは、アブラがオオスギル」と除外していた。
 人それぞれなのだなぁ。

 THE MERLIN COURT ホテルにチェックイン。
 ビジネスホテルと聞いていたが、広さは充分。
 ホテルで石丸さんとお喋り。
 根本敬さんの本のなかで、「内田の研究」という、
 ダメ人間定点観測の名作があるのだが、
 石丸さんの友人のダメ人間、佐藤の研究の話、抜群にオモロ。
 「書けばいいじゃん」と何度も言う。

 さらに昔、石丸さんが名古屋市会議員選挙に出馬したときの話。
 ぜったい、この人は、
 選挙制度をバカにした出馬したのだと思っていたのだが、
 聞いてみれば、大真面目で政治を変えようと立候補したとのこと。
 しかも、当時はシャブ中なのに…
 って、ことを聞いていると、
 本当に、この人は変わっているなぁ〜と思ってしまう。
 選挙資金は、当時、初対面の城南電気の宮路社長に借りたってのも、
 オモロ。

 外出。
 石丸氏、葉巻屋で言葉が通じず、身振り手振りで、
 ロミオイジュリエット・ナンバー1を購入。
 俺は禁煙中なので、奨められても吸わず。
 いいじゃん、海外なんだから…。
 いいじゃん、煙草じゃないんだから…。
 とは思うが、まだゾマホンに会ってない…。

 歩いているところは、
 東京で言えば新大久保のような裏繁華街、
 石丸氏、せっかく昼間に買ったばかりのタンクトップもずぶ濡れ。
 雨降るなか、ボディビルで鍛え上げた体に
 タンクトップで刺青をのぞかせ、
 葉巻を咥えて歩く、まるで暗黒街の顔役。


 雨宿りに入ったお店で、
 新タケノコのお刺身、からすみ。
 台湾名物のからすみは、大根とにんにくの茎と共に食べる。
 美味い!! そして太い。
 この店で、すっかり酔っ払い、
 何故だか、ダンカンさんがいかに凄いか、石丸氏に熱弁していた。

 ホテルに帰って、2Fと3Fに別れて、満腹泊。

 《台湾旅行、二日目へ続く

最初

98年

99年

00年

01年

前回

次回


 

 

読み逃げ厳禁! 読んだら 感想メール を送りなさい! 目次に戻る