2月11日  月曜

13時、高井戸スタジオ
タップ教室の通常のレッスンに加わるが、
ついては行けない。
年端もいかない生徒たちの足並みを見ていると、
これが、タップダンスなのだと実感する。
まさにリトルダンサー。
俺がやっているのは、ただの親爺のリハビリ。
これは、遥かなる道のりである。

が、もはや、やるしかないのだが、
俺のかかとのマメは、赤切れして、
靭帯も損傷。
練習続行できず、大丈夫か。
気持ちばかり焦る。
明日、クランクインだぞ。
頭のなかには、大槻ケンヂの 「特撮」の曲、
「余儀なくされ」が鳴り続ける。
「余儀なくされ」……。

『すだち亭』
ダッカルビなど。
いっそのこと俺、狂牛病になっちまえと。

Kー1中量級大会、深夜に放送だが、
それを見ることもなく、就寝。



2月12日  火曜

朝5時半起床。
浅草へ。

SKY PerfecTV!でPPV放送されるドラマ
『浅草キッド』クランクイン。
浅草の一軒家のなかのスタッフルームへ集合。


体が軋むような寒さ。
ラジオの「放送室」のなかで、松本氏が、
2月のドラマ収録がいかに、寒く苦しいか〜
話をしていて、その口を極めた描写に、
思わず、 聞きながら震えていたが、
まさか、自分がこの思いを味わうとは。

風邪をひかないよう、
待ち時間は、コートだの、マフラーだの
重ね着の重装備。
富永マネや、スズキ(同居人)が付きっきりで、
世話をやいてくれる。
この扱いだけは、まるで、スターだ。

浅草フランス座でロケ。
と言っても、もうフランス座は、
現在「浅草東洋館」という演芸場に鞍替えしている。
その開演時間前まで、
入り口をストリップ小屋風に改装して、
ロケ使用するわけだ。

30年前に北野武が、ここを訪ね、
15年前に、俺たちは、北野武に連れられ、
ここに預けられた。
23歳、部屋を引き払い、
ここから、なんにもないまま、始まった。
そして、本気で、ここで終わってもいいと
思ってもいた。
そして、今再び、北野武役として、ここへ向かう。
時が交錯して、タイムスリップ、
その既視感にくらくらする。

だが、気持ちのなかでは、
もう大プレッシャー。

もう、これは徹底した、
「自分嫌い」の性格としかいいようがないのだが、
最初のワンシーンだけで、
自分を中心に物語が転がるのだと自覚して、
カメラが寄ってくるだけで、
こっ恥ずかしさに、耐えがたい。
自分のなかの違和感、
俺、主役の顔じゃない。
誰よりも、自分を認められない、
自分へのダメ出しを突き詰めると、
とにかく、逃げ出したくなる。

北野たけしより、
失踪した
愛甲たけしになりたい気分だ。

これを、これから延々と続けるのだと思うと、
本当に気が遠くなる。
分を中心にストーリーが

テケツのおばさん役・内海桂子師匠。
絶妙の配役。
無職のタケが、
「ここでコントをやりたい」と直訴するシーン。
決断つかず、煮えきれない気持ちで、
たばこを吸う設定。
セブンスター。
8ヶ月ぶり。クラクラする。

住む場所がなくて、新聞紙に包まって、
道路に寝ころがるシーン。
あまりの寒さに「死にそう」に思うが、
実際、浅草には、こうやって
半死半生で、ごろごろと寝転がっている人がいるのだ。

エロ写真売りのチンピラ役、
薬師寺保栄さんと絡み。
ほどんど、ワンテークでOKになっていく。



監督も基本的に全然演技をつけない。
全然、役作りに自信のない、
と言うより、役作りしていない、
ろくに芝居をやったことないのだから、
もともと引き出しすらないのだから、
これでいいのだと思うしかない。

警察官として、
Dr.コバこと歯医者の木庭先生が出演。
歯医者をしながら、ダンカンさんの弟子もしている、
変わった方だ。
本人の出番は11時半、台詞もないのに、
なぜか早朝6時半に現場に来ていた。
不可抗力のNGでも、
自分のせいだと勘違いして平謝りする木庭先生、
オモロ。
ロケ現場で、自分より緊張している人を見て、
心が和む。



それにしても、ロケの間中、通りかかるのは、
ヤクザのベンツ、ベンツ、ベンツ…
どうやら月に一度の団体さんの集会のよう。
彼らの、ピカピカ、こてこてぶりに比べて、
路上生活者の、ぼろぼろ、吹き溜まりぶり、
浅草は、 貧富の差が激しすぎ、
また、そのヤクザと乞食の人生に、
いちいち、思いを馳せさせる。

商店街の露天で靴屋。
ダンカンさんが本を書いている劇団の、
ガラかつとしさんが、売り子の役。
紙きりの林家正楽師匠、靴屋のヤクザ社長。
本当に、強面。
これくらい、怖い顔はないかも。
ワンシーンではもったいないほどの、
配役の妙。

 

隅田川に移動、
ロケバスのなかで、
すっかり精神的にも、
体力も消耗しきっていた。

やっとシーンが終わったと思ったら、
次。次。台詞、台詞。
ホント、端役のほうが、楽だ。
なんで、主役はこんなつらいのだ。

哀川翔は毎日24時間、10年間、
これをやっているのかと思うと、
心底、偉いものだと思った。
だからこそ、ああいう主役的人格という、
人間形成が出来るのだろうとも。

バスの窓から、のぞくと、
制作の米村さん、
小柄な女性なのだが、
荷物を載せた、リアカーを引きながら移動。
まるで、
ジョージ秋山の「アシュラ」「銭ゲバ」の漫画のようだ。
朝から、ずっと、ロケ先の交通整理をしてくれていた。
その健気な姿に、胸キュンと言うか、
何を、かっこつけて「俺は主役の柄じゃない」などと、
自分を嫌がっているのか恥じる。
とにかく、やれ!だ。

隅田川で、再び薬師寺さんと絡み。



「ロケバス」のなか、
進行の超陽気な、稲葉さん、
携帯で、「浅草キッドの稲葉です」と各所に連絡。
その響きがオモロで、
監督が、
「そう言えば、 俺の友達の編集者が、『かわいい奥さん』の編集部で、
「可愛いい奥さんの@@です」って電話していたな
〜などと笑い話。
聞きながら、
俺、今や、すっかりジョーク言う、
余裕もなくなっているのに 気づく。
いやはや、俺、てんぱっているのだなぁ。

16時、赤江くん(玉袋)
眼鏡をかけ、武と同期にフランス座にいた、
作家の井上雅義役で登場。
井上ひさしに憧れる文学青年。
朝から、ずっと、 見ず知らずのスタッフで、
人見知りの俺が、
一人きりだったので、
思わず「 いのうえ〜」と言いながら、抱きつく。

井上は、最後に長台詞があるのだが、
普段は寡黙な、物語の観察者である。
ダンカンさんの脚本段階では、
俺が、この役たった。
確かに、
普段の赤江くんとはまったくの逆だ。
しかし、眼鏡姿は、それらしく。
おいしい役。

フランス座の屋上。
俺たちが修行時代も、ここは、唯一の息抜きの場所だった。
暗く、湿った、希望のない小屋から開放されて、
ここに来て、青空を眺める。
RCのトランジスタラジオ的な、いや、
まさに防空壕から見る、青空だったと思う。
あの頃を思い返す。

フランス座屋上、タップ練習シーン。
と、お互い、武と井上が、名乗り合う、出会いのシーン。
それを横で眺めている、
看板書きのおじさんの役者さんが、
本物かと思うほどの
絶妙さ。


小屋内、再び内海桂子師匠と。
布団部屋をあてがわれるシーン。

そして布団部屋、井上との会話シーン。
二人とも、気恥ずかしく、照れに照れて、
どこから声を出しているのか、
まるで、自分の声ではないみたい。
それでも、監督OK。
内心、「へたくそ!」と自分に。
20時、終了

タップの先生、
畠山マキさんに軽くレッスンしてもらう。

21時帰宅。

前日開催され、評判の「K―1ワールドMAX」ビデオで。
中量級の打撃系格闘家、
日本人8人によるトーナメント

須藤元気、総合で、初代タイガーマスクになれる変幻自在さ。
村浜の体重差をもろともしないファイト。

なんたるチャンレンジ精神。

 


2月13日  水曜

篠崎組『浅草キッド』2日目。
今日も浅草へ、早朝6時半集合。
やはり眠れていない。

10分ほど遅刻。
このわずかな遅刻でも、
助監督の杉山さんの顔つきなどを見ると、
ハラハラと大慌てである。

気をつけよう。

アクシデント発生。
メーク時間が短時間で済むように、
3日前に日焼けサロンで焼いた顔に異変が。
ポロポロ皮がむけてくる。
応急処置で、どうらん塗りたくる。
傍目にも、圧塗りすぎて、いったい、どういう顔だ。
今回、照明スタッフがいないとのことで、
メークの清水さんも手を焼く。

目の下には、大きなくま。
もはや、レオナルドくまさん状態。
まったく主役の顔じゃない。

北野武の師匠、 深見千三郎役、
石倉三郎師匠登場。

以前のテレビ朝日のドラマは、
中条静雄さんが演じられていただけに、
雰囲気が違うかと思ったが、
すっかり、浅草芸人、師匠になりきっていた。
そして、楽屋は、唸るような、
名言、金言の連続。

ナーバスになっている俺を察してくれてか、

「水道橋、役者の仕事は、自分以外は、皆、上手く見える、
 最初は、その連続なんだから」

「師匠、俺は、もう40歳になるのに、今回の、この若者役は、
 無理があると思うんですよ」

「馬鹿!40歳だろうが、何歳だろうが、
 年齢差がある役が来ることに意味があるんだよ。
 俺にお前の役は、こないだろ。
 それが役者の役柄なんだよ。
 発注があることが、役柄なんだ」 などと。
 

昨日、WINSの前で寝ていたホームレスの所に、
救急車が。 2月の冬の寒さは厳しい。
俺、体じゅうに『貼るカイロ』装着。
でも基本が、Tシャツにハッピ姿の薄着なので堪える。

フランス座、入り口で
石倉さん、内海師匠との絡み。

昼食後、休憩時間だが、
タップダンスの練習、スタジオを借りてもらう。
西日暮里の『スタジオ・カルデロン・レアル』で
一時間半、 自主練習。

待ち時間、石倉さんと台詞あわせ。
待ち時間に何をすればいいのか。
石倉さんを見ていると、教えられることが多い。

移動。
お寿司屋『六兵衛鮨』



すし屋の大将、鮨ネタを言うだけの、
簡単なセリフが言えず、
NG連発、いやあ、
自分より下手な人見ると、心がなごむ。
オモロ。

移動。
銭湯『ひさご湯』。
人生解毒湯、
深見師匠と井上と。
この湯の中に潜る。

21時終了
22時帰宅。
「早く寝なきゃ」と焦る。

久しぶりに新聞を読む。
ここ2、3日、新聞を読む気すら起きなかった。
スケート清水「銀メダル」らしい。

ここのドラマのスタッフで、
ソルトレーク五輪の結果を知ってる人、
いないだろうな。


2月14日  木曜

本日も、篠崎組、ドラマ『浅草キッド』撮影3日目。
6時半、浅草入り。

バレンタインディに、一切、義理チョコすらない現場。
これは、テレビ現場とは大違い、むしろ、潔し。

完全に風邪を引いた模様。喉に痛み。
いつのもパターンだと、
ここから、
高熱が出るはず。
しかし、そういうわかにはいかない。
風邪薬、3倍飲み。
ありとあらゆる、サプリメントを流し込む。
気合で直すしかないのだ。

今日は赤江くん(玉袋)も早朝から。
「死相が出てる」「黄疸がでてる」
と俺の顔色の悪さを心配される。

『イル・ポスティーノ』のマッシモ・トロイージか、
あるいは、『竜二』の金子政次か。
いづれにしろ、クランクアップと共に、死ぬ運命か。

でもスタッフだって全員寝ていないのだから……
当然、「昨日、何時間寝た?」などという
"寝てない自慢"をする輩は、ここには、誰もいない。



フランス座、エレベーター。
エロじじい役・横山あきおさん
内海桂子師匠との絡み。

タップの畠山マキ先生にチェックしてもらう
あきらめていたパターンに挑んでみたら、出来るようになってた。
が、ビデオで見ると、まだバラバラだ。

昼食

昔たけしさんが実際に住んでいた、
アパート『第二松倉荘』へ移動。
ここには、俺たちの仲間も15年前住んでいた。

何もない3畳間。
ひょっとしたら、15年前、浅草最終出口を
出損なっていたら、
俺も、ここで、 終わっていたかも。
「それでもいい…」
って当時は、思っていたのだから。

合間に、篠崎監督から、
ドラマの主題曲をMDで聴かせてもらう。
奥田民生の曲で『花になる』
今度シングルになるらしい。
民生節。詞も偶然にも、
ドラマとシンクロしている。

「じゃあ、この曲を博士さんヴォーカルお願いします」
と言われるんじゃないかと、
ドキドキする(そんなワケないんだが)
もう思考回路、パンク寸前。


17時、ダンカンさん、合流。
後のビートきよしになる二郎役のつぶやきシロー
先輩芸人の高山役、須間一彌さんも。

ダンカンさんもドラマ『菊次郎とさき』で、
ビートたけし役を演じたことがあるので、
この俺のプレッシャー、
精神状況、 境遇をわかってくれる。
話が弾む。

「こんな不細工なたけしは、いないですよ」と俺が言ったら、
ダンカンさん、
「俺も、その通りに殿から言われたよ!」
「こんな仕打ち……俺は、前世でどんな悪いことやったんだろう」
「たけしさん役をやりたい役者が一杯いる中で選ばれたんだからって、
 思い込まないとやってられなかった」などと。

さらに待ち時間、
石倉三郎師匠による独演会に
東映大部屋残酷物語。
長渕 vs 石倉4年越しのケンカの真相。
爆笑。芸人楽屋の雰囲気。


フランス座
オカマのメイクをして。

石倉さんに怒鳴られるシーンを撮影。
そのド迫力、本気で怒られているような錯覚をおこす。
初めて自然な演技が出来た。

空き時間、赤江くん(玉袋)と
『お笑い男の星座』の構想を練る。

ドラマだけじゃなくて、
『ステ看版ニュース』と『アサ秘ジャーナル』の
単行本化用の加筆修正もしなきゃならんので、
そっちの方も追われる。


21時半、終了
22時半帰宅。とにかく寝ろ。

>> つづく

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