出版界にもの申す!
『編集会議』2003年9月号 水道橋博士インタビュー
今、出版不況で「本が売れない」って、皆、声をそろえて言ってるでしょ。斉藤美奈子さんの「趣味は読書」って本にこういう統計があるんですよ。「もし日本が百人の村だったなら。四十人はまったく読書をしなくて、二十人は読書をしても月に一冊以下」だって。
そりゃあ、売れないよね。となると、作家は作り終えた時点で、仕事が成立するわけじゃないと思わないと駄目ですよ。自らセールスマンにならなきゃ。『書を捨てよ、町に出よう』ではなく、『書を持って、町に出て、自ら売れ!』って気持ちじゃないとね。
どんどん、活字力が落ちているなかで、タレント本でも、さまぁ〜ずの『悲しいダジャレ』が25万部突破って、あんなスカスカのワンフレーズものしか売れないとしたら、出版業界はいよいよダメになりますからね。
まあ、読者がいないから、活字が少なく中身のない本が、売れてしまうのはわかる。テレビも一緒だもん。一番層の大きいバカに向けてレベルを合わせるゴールデンタイムの番組の論理となんら変わりがないですよ。
この間もね。俺らの本の増刷が決まったとき、「お金がかかるから、校正は少なめにお願いします」って編集者が言うの。耳を疑ったよ。車の欠陥が二十箇所見つかったときに、お金がかかるから直すのは五箇所だけにしてくれって言う? そんな欠陥品を市場に出していいわけない。自分の仕事には、もっと誇りを持ってもらいたいですよ。
『白い犬とワルツを』伝説って、ありますよね。本は僕の好みではないけど、あの伝説はすごく好きなんです。地方の小さな書店員さんが、情熱を込めて推薦文を書いて作ったポップ。そこから全国に飛び火して、大ヒットに繋がったって奴。俺は「ああ、そういうやり方もあるんだな」って参考になった。
で、一昨年『お笑い男の星座』の一作目を出した時に、自ら本屋さんに出向いて、棚を作って、ポップも作って、自分らの手で売ろうとしたの。
ここブックファースト渋谷店さんは、俺たちの販促企画の持ち込みに意欲的に応えてくれたんですよ。以来、親しくさせてもらっているんです。この七月に『お笑い男の星座2』が出ました。今回もいろいろ売り方を考えてて、その打ち合わせも兼ねて、今日はここに。
それ以外にも自分達のホームページで、この本の読書感想文コンクールやっているんです。素晴らしい作文には非売品の俺たちの放送禁止の漫才舞台DVDを賞品として用意してあるの。
定番メニューがある本屋だから、僕はもう自分で本屋さんをやりたいですね。副業として。
いっそのこと一部上場したヴィレッジヴァンガードの株を買い占めたい。好きなんですよ、あの本屋さん。サブカルという品揃えが僕の趣味に合っているし、あそこはポップも社員の手作りでしょ。だから、僕が社長になったら、自分の好きな本のポップを自ら書きます。「この本を買わないと、店閉まいします!」「あえて社長が言います。この本はここから二年は撤去しません。なぜなら面白いからです!」とか書いちゃう。
そして、クリスマスツリーの凄い大きいのを買ってきて、入り口の前にドーンと置く。そこに『お笑い男の星座』シリーズをズラッとぶら下げて、五年くらいは売り続けます。たとえば有名な洋食屋みたいなものですよ。「あそこに行ったらハヤシライスを食べなきゃ素人だよ」って、言われるようなメニュー。そんな勢いで定番メニューの『お笑い男の星座』を売るんです。
本はいま、生鮮食料品、みたいなものじゃないですか。やっと発売にこぎ着けても、すぐに鮮度が落ちたと思われ、棚から下ろされ、廃棄されるという運命を背負っている。でも面白い本だったら、永遠に面白いんだもの。賞味期限なんてあるわけがない。もちろん、自分たちの本だけでなく、面白い本なら同じように扱いますよ。早すぎる本のサイクルに徹底抵抗してやるんです。
「あそこは店員が本の知識と愛情があるから賞品を吟味していて、本当に面白い本しか売ってない」って活字好きの信用で客が集まるの。
作り手が「これはいい本だから、売れるべきだ」と思ったら、捻り鉢巻で商売人にならないと。編集者だって、もともと本好き、活字好きだから、この世界に入ってくるんでしょ。だったら、もっと物語りや活字に自信を持って本作ろうよ。自分の職業のプロ意識に矜持を保たないといけないんです。
「許されざる者」の伝記作家なのか?
だから、『お笑い男の星座2』は編集者とか業界の人に読んで欲しい。だから、この本の序章に書いている話は出版業界へ向けての挑戦状なんです。
単なるタレントの余技のつもりはないし、出来ることなら本当の文章のプロと競い合いたい。「これだけ面白い本を書けるのか!」みたいなところでね。少なくとも俺たちは漫才師だから、笑いのプロだし、言葉を選ぶセンスや面白いことを書くことにかけては負けないと思っているので。
反響もありますよ。
幻冬舎の見城社長は「幻冬舎に、このシリーズを持ってこれなかったのが不覚だった」って言ってくれたし、三谷幸喜さんから「舞台やドラマはともかく、今後、自分が書く面白い文章の手本、目標です」ってメールをもらって、そりゃあもう嬉しかったよ!
でも逆に批判もある。
さっき言った読書感想文コンクールの中にも、俺たちを“映画『許されざる者』に出てくる伝記作家でしかない”と揶揄したものがあってね。“凄い大物、怪人、偉人に憧れているけど、君たちは何者でもない”って。でも、これは確かに当たっている。だって、俺はあの映画が大好きで、自分があの伝記作家の存在じゃないかって、かねがね思ってったの。でも、自分はクリント・イーストウッドでも、ジーン・ハックマンでもない、脇役の一人に過ぎないって自覚があるんだよ。でも、その伝記作家にさえ人生はあるんだよ。沢木耕太郎だって、決して自分自身を英雄的に書いているわけじゃない。英雄的な生き方を彼の目を通して翻訳している。その文章が英雄的なんですよ。
実は、『お笑い男の星座2』でも一章を割いた『プライドの怪人』の百瀬博教さんのバイオグラフィーを書いてみないかと話があるんです。どうせやるなら、さらに懐に飛び込んで書き込まないと。それほどの希代の不良物語なんですよ。でも、アンタッチャブルに手を突っ込むわけだから、ヒリヒリするような危険なものにしたいけど、それが人畜無害であるべきタレントの仕事と相反してくることもあるわけで、そこが、今、難しいところなんです。
もともとは俺はタレントよりルポライターになりたかったんですよ。キッカケは中学時代に竹中労を好きになったから。でも、自分は快楽主義的だから「絶対に正義を貫けないな」と思ってあきらめた。
そんなときにビートたけしの自叙伝『たけし!』(講談社)に出会ったんです。ものすごく感化されましたね。「ああ芸人って、袋小路じゃないな」って思った。だってお笑いの仕事は、例え成功しなくても失敗を「笑える」ことが出来る仕事でしょ。つまり受けなくても、そのことを笑い飛ばせる、さらに、そのことがネタになり成功へと繋がっていく。どんな職業にも、どんなに成功しても考えが行き詰まり出口がない状況はありえるけど、お笑いの仕事は、「笑える」ことで、全て一点突破できる。「こんなイイ仕事ないな」って思いましたよ。
ただし、自分は親分としてリーダーシップをふるいながら、王道を行くってタイプじゃない。要するに子分肌。「絶対、俺って英雄じゃない」と見切っている。自分の中の英雄を見上げて憧れて生きている性分だと思う。
選ぶ本の内容にもそういう傾向はありますね。
山城新伍さんが書いた『おこりんぼ、さびしんぼ』(幻冬舎)という本なんか最高です。若山富三郎さんと勝新太郎さんの話なんだけど、破天荒な人物伝であり、高度な芸談であり、なにより山城さんがどれだけその二人を好きだったか、哀切たっぷりで、本当に共感してしまうんですよ。
ただ、これがあまり世に知られていない。
だから『日経エンタテインメント!』へタレント本の書評の企画を持ち込んだ。どうしてもこの本のことを世間に知らしめてやろうってね。
自分にとって凄いものを人に紹介したいという欲求が強い。
だから、面白本は、それを人にあげて読んでもらうために、何度でも同じものを買う。
いままで1番多く買った本はね、海老沢泰久さんの『ただ栄光のために――堀内恒夫物語』(文春文庫)一度絶版になってしまったんですけど、その後『本の雑誌』で「絶版にして欲しくない本ベスト10」みたいな企画でランクインしたんです。それで復刻された。
古本屋で見かけると必ず買ってる。
今は新潮文庫から文春文庫に移籍しても出版されてる。文体がめちゃクールなのに読後感がカーってホットになって、ジーンと余韻に浸れるの。名作だよ。
そんな博士が選んだ五冊
『ウディ・アレンバイオグラフィー』。アレン好きって言うと、ペダンチックで鼻持ちならない奴って言われるけど、純粋に今、伝記ものが読みたいから。自分がもっと伝記のスタイル、勉強したいんで。日本では少ないけど、アメリカでは偉人たちのバイオグラフィーって、必ず何種類も出版されるでしょ。それぞれ出来もいい。そのジャンルの読者層が厚いから、レベルも当然高いということなんでしょうね。
『シネマ90s』。これは今年に入って一番何度も買った本。これで四冊目。知人へのプレゼント用です。すごく喜ばれるから、ぜひ『編集会議』の読者にも知ってもらいたいという意味合いで選んだんだけど。だって、この本、カラー八百ページで四千九百円だよ。安すぎ! しかも内容は“九〇年代シネマ”って括り。この年代の映画を世界的視野で包括的に語る映画論ってあまりなかったですよね。写真のチョイスもレイアウトも抜群でを眺めているだけで、ものすごく楽しめる。
百瀬さんにもこれをプレゼントしたら、いまは百瀬さんの宅の膨大な本の山の一番いいところに置かれてますよ。
『昭和の劇 映画脚本家 笠原和夫』。この本は前から知っていたんですけど、ちょっと値段も高いし中身も濃いんですよ。だから買っても、読む通す自信がなかった。この機会にと。
同時期に出た、同じく笠原さんの「映画はヤクザなり」(新潮社)の中では、たけし映画にとても否定的なんですよ。そこもある意味T仁義なき戦いUってことで興味もあるし。
『ナンシー関大全』
彼女とは『アサヒ芸能』で、一緒に連載をやっていたし、同い年だったし、メール交換をしたり、しかも俺と同じくビートたけしに人生を変えられた人間だから、なんか戦友意識みたいなものがあったんですよ。ナンシーが亡くなった後に、玉袋がとてもいいコラムを書いたんです。「俺たちが生ぬるい番組に出ようとしなかったのは、正直言えば、ナンシーの目が怖かったからだ」って。同感だったな〜。
『みうらじゅんのマイブーム・アート』。俺はね、もし女だったら絶対みうらじゅんさんに抱かれたいと思っているんです。絵も文章もトークも面白いし、なによりバカに命懸けだし、『お笑い男の星座』には絶対出てこないタイプの文科系の輝く星として敬愛してる。
実は今日(取材日時は八月八日午後)の午前中、長男が生まれたんですよ。だから、みうらさん。記念に新しい絵を下さいよ。『編集会議別冊 みうらじゅん全一冊』の表紙の奴がいいな。
子どもには「たけし」って名付けました。だから本物の「たけし」と競い合えるような才能に育てたいな。歌舞伎役者のように、そういう運命を背負ってきたんだと思わせようかと。
でも、それだとプレッシャーに押しつぶされそうですね(笑)。その顛末を椎名誠の「岳物語」にみたいに伝記作家の俺が書くのって、どう(笑)
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