お笑いライブ
笑うのも忘れるほど圧倒されるか
笑われるだけの芸人にシラケるか

アサヒグラフ 9/5号より  実践「流行ノ−ト」 新川貴詩 

「チケットの入手が困難」「発売開始直後に完売」……。
ミュ−ジシャンや劇団の人気ぶりを紹介するそんな常套句は、
今や、お笑い芸人にも適応される。
お笑いライブが多くの人を集め、人気上々というのだ。
 
コンサ−トの呼び名が「ライブ」にとって代わって久しいが、
お笑いの催しも最近は「ライブ」と称される。
お笑いライブは、寄席や演芸場ではなく、
ライブハウスや小劇場、多目的ホ−ルで実施。
情報誌を見ると、この手のライブがかなりの数にのぼる。
そこでさっそく、実践流行記者はお笑いライブに行ってみた。

まずは何組かの若手芸人を集めたライブを見た。
朴訥な訛りで話題のお笑いタレントも出演するとあって、
チケットは入種困難。しかも人気ぶりは予想以上だった。
開演の五時間ほど前、別の用事で会場の前を通ったところ、
すでに人垣ができていたのだ。
会場入りするタレントを待ち構えているらしい。
その昔はレッツゴ−三匹や中田カウス・ボタンにも
多くの追っかけ少女がいたくらいだから、これは驚くに当たらない。
むろん、いまどき「じゅんもかわいいけど、長作もイケてるよね」
と話すコギャルがいたら驚くけれど。

驚いたのは、なんでもかんでも笑う客の存在だ。
十五、六年前の漫才ブ−ムのころも、
やはり芸人の一挙手一投足に笑い転げる者がいたが、
そんなのは舞台から三列目までの客席に陣取る追っかけたちに限られていた。
ところがいまのお笑いライブでは、ほとんどすべての客が、
芸人の他愛もないくすぐりに声をあげて笑うのだから始末が悪い。

とはいえ実践流行記者を名乗るからには、
この場に溶け込むことが務めであろう。
こうした風潮を鼻で笑うのではなく、
他の客とともに 舞台を見て笑い転げるべきであろう。

しかし果たせなかった。
理由は明快、つまんなかったのだ。
客を笑わせる芸人には敬意を抱くけれど、
客に笑われる芸人には興味がない。

次に足を運んだのは、浅草キッドの単独ライブである。
こちらは、チケットが即日完売。
急遽追加公演が決まったほどでもある。

会場に入ると、最初に行ったライブとは様子が違うことに気づいた。
男の客が圧倒的に多い。それも、ファッション雑誌から抜け出たような
連中ばかりだ。どいつもこいつもひとクセもふたクセもあり、
さながらプロレス会場の客層に近い。
 
浅草キッドがステ−ジに現れた。
キャ−と叫ぶ声はいっさいなし。
これだけでひと安心である。
それから二時間、ぶっ通しで漫才は続いた。

バカ笑いする者も多少はいたものの、笑い声は絶えなかった。
実践流行記者もたまには笑った。だが、あまり笑えなかった。
つまんなかったからではない。
笑うのも忘れるほど圧倒され、ただただ呆然としてしまったのだ。
水道橋博士と玉袋筋太郎のふたりによって、
たとえばこんなやりとりが交わされる。

 博士「近ごろのテレビはパクリが多いですからね」
 玉袋「いま、北朝鮮で日本の番組そっくりのをやってるんだって」
 博士「どんな番組なんだよ?」
 玉袋「ヨネスケの『突撃 隣の晩ごはん』。あれをパクってんだよ」

普通ならここでツッコミ役が「よせよ」といなすのが定石だが、
浅草キッドの面白いところは、この先だ。
ツッコミの水道橋博士が、
ボケの玉袋に輪をかけて危なっかしいジョ−クを連発する。
そして、歯止めのきかない展開となるのだ。

ところで、最近のテレビは演芸番組に乏しい。
お笑い芸人が出演する番組は数あれど、
キッチリと芸を披露する機会はまれだ。
そんな事から客も芸人自身もライブに期待を寄せる。
ただ、今回見たふたつのライブは対照的だ。
浅草キッドはテレビで放映できないネタを披露。
客は悪所通いのような雰囲気で舞台を見守る。
一方、最初に見たほうは、テレビでは見られないというより、
とても演芸番組など務まらない出演者ばかり。
客は追っかけが大半だ。

そんな追っかけだけは、さすがに実践する気になれない。

 

 

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