淋しいのはおまえだけじゃな
文・枡野浩一 「R&R NEWS MAKER」 NO.122 

 九八年八月某日、晴れ。

 浅草キッドの二時間漫才ライブを、中野ゼロホールへ聴きに行く。

 たけし軍団きっての実力派である浅草キッドの二人が、
 師匠であるビートたけしの反対を押し切り、
 やや強引に「二代目ツービート」を襲名すると宣言!
 その結果たけしに破門を言い渡され、
 たけし軍団の中でも激しく孤立してしまった彼らの、
 あしたはどっちだ!?というのが、
 浅草キッド造反物語の先週までのあらすじであった。

 ツービートというのは、
 かつてピートたけしがビート・きよしと組んでいた人気漫才コンビである、
 という説明が、若い読者のためには必要かもしれない。
 〈赤信号、みんなで渡れば怖くない〉という、
 今や古典として愛唱されている俳句を日本中に流行させた彼らは、
 日本一の特殊歌人であるこの私の、時代を越えたライバルといってもいい。

 浅草キッド自身の言葉を借りれば〈昭和の爆笑問題〉とでも呼ぶべき
 人気者だったのである。
 そんな「ツービート」の名前を、
 爆笑問題に勝るとも劣らない実力を持ちながら
 だれもそうは思っていない不遇な漫才、
 浅草キッドが襲名するというのだ。
 ごく控えめに表現しても、これは事件である。

 詩人の三代目魚武濱田成夫を
 こよなく嫌っている浅草キッドの二人は、
 もしかしたら特殊歌人なんて名のっている私のことも嫌いかもしれないが、
 私のほうは前々から彼らには好感を持っていた。

 すでに持っていた彼らの三冊の著書を、
 会場の販売コーナーで思わずまた買ってしまったくらいである。
 私がいつもお世話になっている歌人の藤原龍一郎氏が、
 彼らのことを応援しているという事実にも何か因縁めいたものを感じ、
 今回のライヴは卑怯な手をつかってでも観賞したかった。

 チケットはすぐに売り切れてしまったが、
 音楽ライター吉留大貴氏の尽力によって
 「取材」させていただけたのは幸通だった。

 でも初めてナマで聴いた彼らのライヴはかなり面白かったので、
 これからはきちんとチケットを買って観ようと思います。
 二時間にも及ぶ長丁場を、飽きさせずにつないでいく構成力は
 見事だったと思う。
 
 肝心の襲名問悪は、わざとちょっとハズした感じで
 洒落にされてしまったようにも見えたけれど、
 たぶん今後の新展開を用意してあるせいなのだろう。
 二代目ツービートのナマの輝きをまのあたりにしたが、
 あえて苦言みたいなことも日記には正直に書いておく。

 それは、
 「テレビでは言えないような毒舌を売りにしていながら、
  結局はテレビの中の人を笑うことが
  ギャグの中心になってしまっているから、
  客はナマでしゃべっている彼らの背後に
  常にテレビを感じつづけることになる。
  そのジレンマが、いずれ彼ら自身の首をしめることになりはしないか?」
 ということだ。
 頭のいい彼らのことだから、
 そんなのは百も承知でやってるんだろけど。

      ○

 八月其日、晴れ。
 新宿のトークライヴハウス
 「ロフトスプラスワン」にてイペントを主催。
 「新人賞コンプレックス」と題して、文学新人賞の滑稽さを笑い、
 批判するという好企画だ。

 ゲストは三人。まずは人気少女小説家から人気ホラー作家へと
 転身した津原泰水氏。そしてモデル、レースクイーン、
 銀座ホステスなどを経て「性」を描いた小説で
 一躍人気作家となった室井佑月氏。
 最後は上演不可能な戯曲ばかりを書きつづける劇作家の可能涼介氏。
 私を含めて全員が、いわゆる新人賞とは無縁でデビューし、
 新人賞受賞者以上に活躍している。
 そのことを逆説的に「新人賞コンプレックス」と名づけてみたのだが、
 遠くにいる人には「負け大たちの遠吠え」に見えたかもしれない。

 だがイべントは大盛況で、私がこれまでやってきた数回の中でも
 とりわけ手応えがあった。休憩をはさんで四時間、
 満席の観客がほとんど全員最後まで残ってくれた。
 舞台の上のメンツもすごいテンションで話していたが、
 客席の集中カも尋常じゃなく、ときおり爆笑が沸き起きる。
 浅草キッドといい勝負だったと思うのだが、
 自分が日記の中で言っても説得力ないか。

      ○

 八月某日、晴れ。
 コラム連載中の雑誌「鳩よ!」の編集部から、FAXをもらった
 (翻訳家・文藝評論家)大森望さんのホームページみてたら、
 こんなんありました。〉と書き添えた、ホームページのプリントアウト。
 読めば、先日のイペントの感想だ。
 面識のない人が、勝手に書いてくれたにしてはえらく好意的である。
 〈顔ぶれから予想はしてたど、いや面白かった。いままで見た
 トークライブでもピカイチかも。〉……有り難いご意見である。
 が、あのイベントの問題点は、
 私自身がいちばんよくわかっているつもりだ。
 浅草キッドへ言った言葉が、やがて全部私へ帰ってくるだろう。
 百も承知で、あしたばどっちだ!?

                     
             発行:ビクターエンタテインメント株式会社

 

 

 

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