| 今週のトークバトル 作家 百瀬博教 |
| 東京スポーツ12/16付 |
北野武(ビートたけし)監督の映画『HANA-BI』が、 ベネチア国際映画祭でグランプリを獲得したのを知った時、 オレは心から「おめでとう」と叫んだ。
一人のファンとして今回の受賞は「当然のこと」だと思った。 最近、親しくしてもらっている、たけしの師匠の立川談志が 「たけしの映画は分かりにくい」って言ってたから、
オレは「何という映画を見たの?って聞いたんだよ。 そしたら『ソナチネ』も『キッズリターン』も見てないんだって。 あんなに面白いのに…。
たけしの映画には「なんてコイツは凄いんだ!」って奴が出てくるから、 いつも夢中になっちゃうんだよ。 談志師匠の場合はたけしの身内だし、近くにいるから
「距離は夢見させる」なんてこともないんだろう。 オレは、今回の『HANA-BI』は、まだ見ていない。 悪役で出ている西沢仁にチラシを一枚もらっただけ、
来年1月24日の公開を楽しみにしている。 オレは、たけしが漫才をやっているころは金儲けに一生懸命だったから 「コマネチ」って芸しか知らなかったんだ。
それに心の底では 「こんなもん見て大笑いしているうちに、 オレの人生終わっちまったら大変だ」 って思っていたんだよ。
それが、たけしの映画を見た瞬間にファンになってしまったんだから…。 中でも『ソナチネ』は最高だった。 「死にたくないってあんまり考えていると、死にたくなってしまうんだ」
のセリフが気に入った。 砂場で子分同士が相撲を取るシーンでも感動した。 たけしの映画っていうのは、”思いっきり”の美学。
それがたまらなくいいんだよ。 これも『ソナチネ』なんだが、 紙相撲や落とし穴で遊んでいる大人の姿を見て 「ああ、映画はたけしのおもちゃなんだな」って思ったよ。
家に入らないほど大きいおもちゃを持ってるたけしを、 オレはうらやましいと思った。 そのたけしと、初めて会ったのは北の湖が現役時代のこと。
東京・銀座のクラブだった。 頭が床にくっつくほど下げてオレにあいさつしてくれたが 「ああ、コイツは不良なんか大嫌いで、大バカにしているんだ」
って感じた。 そして「ホンモノしか相手にしないヤツだ」とも思った。 2度目に会ったのは、それから数年後。 東京・南青山 で宮沢りえと一緒の時に会った。
その時、オレはサイデンステッカー先生との共著で出版した 『私の東京』を強引に渡した。 そして3度目。西麻布のレストラン。
先客だったたけしが、オレの顔を見るや、サッと立ち上がって 「ご一緒しませんか?お話ししましょう」って言ってくれた。 その時、オレは
「ああ、やっとオレのことを理解(わか)ってくれたんだな」 って大感激したものだよ。 たけしが何で、あそこまで成功することができたかというと
「人の金なんかアテにしなくても平気」って身分に 己をグイグイ押し上げたからだよ。 たけしが漫才を選んだのも偉かった。 死ぬほど利口な男だから
大学なんかの教授なんかになろうとは思わなかった。 もし、たけしが教授にでもなっていたら 「天才」とも「金持ち」とも縁がなかったろう。
要するに、たけしは人気が金を呼び、そのお金で教養を引き寄せ、 天才だけが住める山頂に駆け上がった男なんだ。 人気とお金を相乗的に高めたのが今の知性を獲得させたんだと思う。
たけしの稼ぎはハンパじゃないはずさ。 たけしは巨額な税金を払った分ほど教養を身に付けてきたはず。 教養とお金は双子のようなものだからね。
教養を磨くのはメチャクチャお金がかかる。 …だから金と教養が見事というくらいに合体して成長してきたのが、 たけしだったんだと思う。
とにかくオレは、たけしの映画を見て、 いつも学習させてもらっているよ。 特に「思いっきりのよさ」をね。 たけしはニセ物を嫌い本物はかくあるべきだってことを
スクリーンで表現するから 「オレも、しっかりしないといけないな」って、 映画を見るたびに反省ばかりしているわけさ。 |