浅草キッドの文章力

『日刊スポーツ』2004年6月24日付 


「文学賞の発表を待つ作家の気分を味わえたのは、貴重な経験だった。
 正直、欲はあったけどね」
と言うと、漫才コンビ・浅草キッドの水道橋博士は笑った。

昨年7月に出版され、現在まで約2万部を売り上げている
「お笑い男の星座2=浅草キッド著」が、
今年の大宅壮一ノンフィクション賞
(こんな夜更けにバナナかよ=渡辺一史著が受賞)の候補に挙がっていたのだ。

本の内容を簡潔に言えば、短編7部の構成で、
故鈴木その子さんや江頭2:50などの生きざまを、
浅草キッドとの触れ合いを元にしたドキュメントだ。
いわゆるタレント本である。

しかし、識者からの評価は異常に高かった。
作家・重松清氏は『週刊朝日』誌上で、その筆力を
「相手の言葉を血肉のレベルで受け止め、それを再現できる」。
さらに雑誌『編集会議』の花田紀凱編集長は
「大宅壮一ノンフィクション賞をあげたい。
 今年、読んだノンフィクションの中では一番、面白い」と絶賛した。
 
そんな高評価を受け、出版担当者が大宅賞へ推薦。
日本文学振興会はこれを受諾し、
約100のエントリー作品のうち、ベスト20にまで残っていたのだ。
重度身体障害、薬害エイズ、北朝鮮など、
これまで大宅賞に輝いた作品は
「重い」現実を描いたものが圧倒的に多い。
が、この本は…。

例えば「自称最強・寺門ジモン」編では、
楽屋にて「オレこそ最強の男だ」と豪語したジモンの発言が、
周囲の突っ込みを受けるうち、
その最強ぶりがどんどん大きくなっていくおかしさ、
ばかばかしさ…実に軽く、はっきり言えば
「どうでもいい」現実を題材にして筆をふるっている。

しかしこれが全編、実に面白い。
十分な取材(付き合い)に裏打ちされたエピソードは濃くて、
衝撃的なものが多かった。

さらに、言葉の表現や比ゆが斬新で、
数行に1つのペースで、クスリと笑える。
「今のところをもう1回」と読み返し、同じ所でまた笑う。
そんな感じで読了した。
 
昨年末、水道橋博士の携帯電話に非通知の着信が点滅した。
声の主は何と石原慎太郎都知事だった。
水道橋博士が執筆した「プライドの怪人=百瀬博教著」の
文庫版・解説を読んで関心を持ったらしく
「水道橋よ、お前の原稿は素晴らしい。
 これから本格的な文学を書いたらどうだ。直木賞だって狙えるぞ」。
 
芥川賞作家の石原都知事の太鼓判に、水道橋博士は
「あの言葉を聞いたとき(大宅賞受賞は)マジで考えた」と振り返る。
が、そのとき石原都知事に「お笑い男の星座2も読んでください」と送ったが、
返って来た感想は
「こういうのじゃなく、純文学だ!」という指摘だった。
こんな激励を受けたら、色気も当然、出るだろう。

重厚なテーマが並ぶ大宅賞レースに敢然と跳んだタレント本。
注目されるのはコギャル作家ばかりでない。
面白くなりそうな文芸界の変化だと思う。

                     (社会面「鈴木豊の見た聞いた思った」)



 

 

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