「のほほん雑記帳」解説   文・水道橋博士
大槻ケンヂ著「のほほん雑記帳」(角川文庫)より 

オレはオーケンには、あんまり信用されていない。   
それもそのはずで、今までさんざんと奴にイタズラをしかけたからだろう。
たとえば、昔、オオケンが、好きだと公言して憚らなかった、
フーミンを使って、オオツキ宅にイタズラ電話をかけ、
しばし、奴に見果てぬ夢とやらを見させてやった。
また、あるときは、大ブレークする前の加藤紀子と、
オーケンが高円寺でデート?らしきものをしたのだが、
超常現象とUFOの話しかできず、気味悪られ、
奴が悔し泣きしていた話をオレのラジオで喋ってやった。

また、あるときは、なじみのすご腕SM嬢を紹介し、
奴のプレーの模様、性癖をオレの本
「水道橋博士の異常な愛情」の中で、赤裸々に発表してやった。
しかしながら、それらの行為は
オレの悪意ある動機と責められるものであろうか。

オーケンの数々の著作を読めば分かることだが、
奴は(手垢がついた言葉ではあるが)正真正銘の
「精神的ストリッパー」に違いない。

ストリッパーのなかでも、
奴の出し惜しみの無さは特出し生板本番嬢に匹敵しよう。
さらに言えば、多彩なテクニックを誇りながら、
客が喜ぶのであれば、自らの肉体を酷使した、
花電車と呼ばれる極芸すら会得した、芸達者な踊り子でもあろう。 
もっと言えば、なじみの客にはペンライトを手渡し、
自らの秘所にあてがい、客の欲望をストレートな過剰サービスで
答えることすら辞さない娘なのだ。

奴のその大胆な脱ぎっぷりに、魅せられ、
かぶりつきで眺める観客の一人がオレだ。
そのオレが、奴の挑発に導かれ、
ついつい、渡されたペンライトを奴のさらなる秘所にむけ、
より奥へ挿入したくなるのもいたしかたないのではないか。

そんなオレに解説を頼むとは、
つくづく、オオケンはプロの露出狂だ。
オーケンは、この本の中で、中島らもの本をとりあげて、
「読んでればやっぱり 面白い。で、泣ける。センチメンタリズムに」
と書いているが、そのフレーズをそのまま、
この本の解説に代えさせていただきたい。
  
オレ的にはこの本で、何度読んでもウルウルと涙ぐむ箇所がある。
なんで?と言われるところなのかもしれぬが、
そこが、オレの泣きツボにはまるのだから、しょうがない。
恥ずかしいのだが引用しよう。

 〜手首に白い包帯を巻いた彼女と天気の良い日に公園で会った。
 「この間、サザエさんを見たのね」と彼女は語りだした。
 「カツオが言うのよ、
  『父さん、たまには母さんを連れて梅でも見に行けよ』
  って、ナミヘイとフネは『それもいいな』とか言って
  二人で水戸に梅を見に行くの」
 彼女は決心したようにボクの目を正面から見つめ。
 「私達もああなれたらいいね」と小さく言った。〜

とオーケンは自分の初体験の相手でもある、
彼女の想い出を切なく綴る。
10代の女の子の語る、ナミヘイとフネの老いの境地に
オーケン常套句の“いい塩梅”を感じつつ…
オレ、ホロリ。
(ちなみに、手首に包帯を巻いた彼女の声は、
 今のオレには、綾波レイがオーバーラップしたりもするのだ。)
その前に、彼女と知りあったころを
 
 〜公園でうたた寝をし、よく本を読み、
 好きな作家のお墓まいりに行く、
 なるべく野菜を食べ、まだ行ったことのない暑い国へ思いをはせる。
 相手の言ったささいな言葉を忘れず、なるべく多くの詩を書く。
 今ボクのやっていることの何分の一かは、
 彼女と出会っていなければなかっただろう。
 いろいろなことを彼女との日々の中から学習したのだ。〜

と、甘酸っぱく、書いてあるのだ。
そういえば、オーケン、
井上順の「お世話になりました」カバーしていたな。
なんて思いだしつつ、他人ごとながら、
結ばれなかった、この幼い恋愛にふと思いをはせ、
「ノルウェーの森」チックな叙情にオレは涙ぐむ。
(実際、このシーンを読むと必ず映画の『ガープの世界』を思いだし、
 映画で使われたビートルズの「when I'm sixty-four」が
 心に流れ出す、そして何故だか
 「おまえ、百まで、ワシャ、九十九まで、共に白髪の生えるまで」
 なんて言葉が頭の中を駆け巡るのだ。)

このまま、エッセイが終われば、オーケンは女性誌に連載をもち、
恋愛をどシリアスに語る凡百の流行作家にもなれただろう。
いや、美しい女優の妻をめとり、芥川賞をさずかり、
華麗なる転身に成功したかもかしれぬ。

しかし、ケーシー高峰以来の精神分析医ならぬ、
性チン分析医の権威たる、オーケン。
恋愛の破局の理由を自分のエロリビドーと
父性愛のホルモン異常に求め、

 〜オナニーに燃えたモンモンたる日々からやっと逃れたと思ったら、
 今度はフェロモンとホルモンのやっぱりモンモンコンビに悩まされた
 というわけか。

〜と結論する。
 
初めて読んだときも、笑ったが、
今回読み直して、また笑った。
涙ぐみ笑った。
涙ぐみ笑う、オレに言わせりゃあ、
“のほほん”とは、つまりそういうことだ。
 
グラッチェ。

 

 

 

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