水道橋博士の推薦本
吉井妙子著「天才は親が作る」について…

2007年6月 夕刊フジの連載「博士の異常な健康」より

さて、このコラムをたまたま、読んでいるお父さん、
特に、わが子を質実剛健に育てたいと願う、
新米パパのご同輩に是が非でも、この本をお奨めしたい。

吉井妙子著『天才は親が作る』(文春文庫)である。
本代570円は、一生役に立つ、
永遠の実用書の出会いとしては安すぎるだろう。
俺など、大量に買い置き、知人に配っているほどだ。

さて、本の内容はトップアスリート10人の評伝である。
登場する10人とは――。
松坂大輔(野球)、イチロー(野球)、清水宏保(スピードスケート)、
里谷多英(モーグル)、丸山茂樹(ゴルフ)、杉山愛(テニス)、
加藤陽一(バレーボール)、武双山(大相撲)、井口資仁(野球)、
川口能活(サッカー)――。
といったと多岐のスポーツに渡り多士済々。

今なら、松坂大輔がいかに育ってきたか? 
それだけでも旬であり、読書の動機として十分であろう。
さて、この本の内容だが、
スポーツ界で天才とは何か? 
現在第一線で活躍するアスリートたちは どのようにして育ったのか?
著者の視点は、
10人の天才たちの幼少期の"育てられ方"を徹底的に取材する。
そして、彼らに共通することは、
"天才"を親とする天賦の才の子として、
生まれてきたわけではないことを見出す。

結果的に"平凡"な親の"非凡"なる愛情によって、
子供たちが"天才"と成りえたことを実証する。
そして偶然にも、奇跡のような確率で大成功してしまった、
そのコーチングの有効性を、
最新スポーツ科学、脳理論、バイオメカニクス(運動力学)などを引用し、
その普遍性に迫っている。

しかも、"天才"だからという例外を語るわけではなく、
この10人の親に共通する、
"理想的な家庭"のあり方にまで敷衍している。
 
この10人の子育てのなかにある、
現代では失われつつある、平凡すぎる"理想的な家庭"の、
その愛情の詰まり方に親なら誰もが身につまされて、
一つ一つに感じ入るはずだ。
 
俺は、今、子育て本も多々読んでいるが、
昨今、巷で版を重ねる、子育てアドバイス本シリーズが、
いかに我が子が平均から落ちこぼれないよう、
消極的な子育て、減点主義の子育てを語るものであれば、
この本は、"天才"という高い響きと調べを持つ物語に感化され、
親子共に、才能を高らかに伸ばそうとする子育て本の、
画期的な実用書なのである。

「天才は親が作る」(吉井妙子著・文春文庫)の話を続ける。
運動神経の遺伝に関して、
今まで俺は、
「運動神経は遺伝しない。
 運動が苦手になるのはスポーツが苦手な親は子供に、
 そのスポーツをする機会を与えないからだ」
という論を受け売りしてきたが……。
スポーツの種目に於ける、向き、不向きは、
親からの遺伝で決まることもありうるようだ。

筋肉の割合は、
親からDNAによってそのまま組み込まれ、
後天的にトレーニングで変えることは出来ないのだ。
ゆえに速筋が優性の人は、持久系のスポーツは向かないし、
その反対に遅筋の割合が多い選手は、
瞬発力が必要とされるスポーツでは能力を発揮することが出来ない。
と本書は断じられるが、
もし、親や指導者が、
その適性を見誤れば無駄な努力を子供に強いることになるのだが……。

ただし、この内的要因は、
トップアスリートとしてパフォーマンスを発揮するためには、
大事な要因となってくるが、普通にスポーツを楽しんだり、
中学、高校レベルで活躍するぐらいでは ほとんど影響しない。
とフォローされているが、
この初期の適性判断こそ、スポーツのコーチングの基本でもある。

そして、本書では、
運動能力は0歳から3〜4歳での間に決まる要素が多いと語る。
脳神経のネットワークが形成される、
3、4歳までの教育の仕方を第一次外的要因、
それ以降を第二次的要因と運動生理学では分類されている。

この第一次外的要因が形成される幼児期は、
どんな運動あるいは動きをさせるかで、
その子の運動能力がほとんど決まってしまう大事な時期である。
と語るのだが、
さて、この「運動神経決定3〜4歳説」の根拠は、
最新脳科学の研究である。
脳細胞の数は遺伝で決まってしまうものの、
脳の発達というのは脳細胞の数で決まるものではなく、
神経細胞から枝のように伸びている突起物が、
どのように連結されているかによるのだ。

精神細胞はニューロン、連結部分はシナプスと呼ばれている。
ニューロンとシナプスのネットワークは、
外部からどんな刺激を受けたかで大きく変わる。
ニューロン間のシナプスは、知的能力の基礎単位である。
加えて、目や耳、皮膚など外からの情報を受容する器官が
発達完成するのも4歳である。
つまり3〜4歳までの運動教育こそ、その子の運動神経を決めているのだ。

「天才は親が作る」(吉井妙子著・文春文庫)の話を続ける。
この本の秀逸なところは、
子供の運動能力を高める、具体的な方法を描いていることだ、 
さて、10人「天才」の選手たちは少なくとも3歳までに、
運動神経を司る脳への刺激となる、基本動作を身につけている。
実際その競技に親しむのは10歳ぐらいになってからであっても、
運動することに適した脳は出来上がっていたことになる。
と結論づける。
ある意味、これは大胆すぎる仮説だろう。

さて、この3〜4歳までのスポーツ能力の発達に、
大いに関与するのが"足の裏"なのだ。
これには法の華三法行の福永法源もビックリではないか。
そして"裸足主義"とでも言えるテーマを提案する。
例えば、東海大学のスポーツ医科学研究所の田中教授は
この頃に、足底筋を刺激することの大事さを力説する。

「素足か、裸足に近い歩行をした、
 子供のほうがバランス感覚がいい。
 人間は立っているだけでも地球の重力を受けている。
 その重力に逆らって身体を支えているのが抗重力筋。
 抗重力筋は、腹直筋、脊柱起立筋、大・中殿筋、
 大腿四頭筋、下腿三頭筋の五つの筋肉から構成されていますが、
 足の裏を刺激すると、この抗重力筋が発達するんです。
 スポーツはほとんどが立って行われる競技なので、
 子供の頃にこの筋群を発達させるような
 神経のネットワークが作られていたほうがいい」

さらに

「人間の祖先はギボンサルなので、手と同じように足も機能していた。
 やがて二足歩行になってから、足の巧みさは必要なくなりましたが、
 中枢神経から末梢神経の構造はそのまま残っているんです。
 休止していたものを刺激してやれば、その配線は目覚める。
 だからこそ足の裏の学習効果が可能になるんです。
 つまり足底筋が刺激を受けると、
 その受けた状況は筋肉のセンサーを通じて、
 情報として脳にインプットされる。
 足の裏の刺激は、
 脳のネットワークが未成熟な子供のほうが効果はあると言えます」

学術的にも根拠のある "足の裏"の秘めた力。
本著で取上げた10人は偶然にも子供の頃に裸足で遊んだとか、
保育園が裸足を勧めていたとか、
いずれにしろ裸足になった経験を持つ選手ばかりだ。

実際、この本を読んで、俺が、まずもって、
我が子の靴下を脱がせたのは言うまでも無い。
今後は、石田純一もビックリの裸足教育を実践するつもりだ。

博士の異常なる大推薦本、
『天才は親が作る』(吉井妙子著・文春文庫)について書き進めている。
具体例を挙げればキリが無いので、
とにかく今すぐ、特に父親に読んで欲しい。

さて、こういう「天才」本を熱烈に推薦すると、
俺が子供の英才教育病に執りつかれていると思われがちだ。
そして、親バカぶりを他人から危ぶまれる。
また、一方では「過度な期待をされて子供が可愛そうに」などとも思われる。

しかし、この本は
「我が子を一流アスリートにする!」 と盲信している人へ、
現在の合理的な科学的アプローチを知ることになる技術書であり、
しかも、そのためのノウハウの底にあるのは、
実は単純な真理で、親の子供への愛情のかけかたそのものであり、
天才にならなくても才能の伸ばし方の方法論として、機能している。
 
もちろん、皆が皆、トップアスリートを目指すわけじゃないだろうし、
この本で語られる3歳までのトレーニングが肝要である
という幼児教育だけでなく、
「運動を得意な子にするレベル」なら、
何歳からでも、自覚的にコーチングしてあげることが
決して遅いわけではないことも語っている。

英才教育と言うが、
実際、この本で書かれている家庭の共通項は……。
「幼少期から裸足(足の裏)教育を徹底する」
「親子が一緒に食事をとる」
「子育てを家庭の中心に置き、夫婦仲がよい」
「親が子供の好きなスポーツに関心を持ち、
 毎日、子どもの練習を一緒に徹底的に指導する」
「スポーツだけでなく、
 躾と人間性のあり方も徹底的に指導する」
といった点なのだが、
守るべき家訓としては、平凡なほどではないだろうか?

子供の頃から強靭な肉体を持ちえなかった、
文科系の俺だからこそ、"頭"でわかることだが、
理想である目標を掲げ、
例え、スポーツ選手としての結果が残らなくとも、
努力の過程に已むことこそが重要ではないだろうか。

そして、その子育ての過程の残滓が
「子供の頃、体育の時間が待ち遠しかった」
「親の子育てのおかげで風邪をひきにくい体に育った」
〜そんな程度のことでも良いのだ。

いや、本心を言えば、その「程度」でもない。
「体が丈夫だったら、心も丈夫なんだ!」 
それを将来、子供がどれほど感謝することか、
昔の俺ならわからないが今ならわかる。


                      (水道橋博士) 

 


吉井妙子「天才は親が作る」(文春文庫):570円(税込) 



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